秘密事 (ページ5)

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プレリュード・フィズページ5

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(kazato.k)

『ねぇ、これ、どう？』
「ん？うわ、めっちゃええやん、それにする？」
『京極がいいなら』
「じゃあ決まりやな」

マグカップを二つ手に取り
薄暗い店内を迷いなくスタスタと進んで行く
そんな京極の後ろをそろそろと着いていく
誰が見ても明確な主従関係が憎たらしい

「はい、誕生日おめでと」
『ありがとーございます、毎年毎年』
「良かったな、ええの見つかって」
『うん、でも二つも買わなくて良かったのに』
「それは俺がAん家言った時用」

ふーん、なんて興味無いふりしても、高速で跳ねる心臓を落ち着かせる為か、歩幅は広くなるばかり
気付いたら京極の少し先を歩いていた

振り返るとニヤニヤしながらこっちを見ているだけで
まるで心の中まで見られている気がする

勝手に気まずくなって『電車間に合わない！』と言い訳して
今度はちゃんと急いだ
着いてこない事は分かってるけど

時間の割に混んでいる電車で、一つだけ空いてる席を譲ってくれるとか
そういう所、ずっと優しい訳じゃないけど、うん、何かそういうとこ

『あ、京極は誕生日どうする？』
「あー、何やろな、欲しいもん？」
『何でもいいよ、買える範囲で』
「Aが俺にあげたいって思うやつ」
『一周回って変な置物とかになるけど』
「はは、ええよ、俺Aのセンス好きやし」

目の前にずっと立たれるのも変に緊張して、絞り出した不自然な話題の返答で、更に緊張して

ずっと振り回されているのが嫌で
どうにか振り回そうとしただけ
無謀だって、そんなの分かりきってる事で
ただ長々と続く片思いに嫌気がさして
本当にただの出来心、本当にそれだけ

『…それか彼女とか？』
「彼女？」
『私が、彼女になるとか…？』
「まじ？ええやん、それ」
『え、本気で言ってる？私は、ただ冗談で』

機械的なアナウンスが私の必死の弁解を遮ると同時にドアが開いて視界が急に明るくなった

「芸人に冗談言うなら冗談で返される事も覚えとき」
『あ、』

「Aほんまにおめでとうな、じゃ、俺の誕生日楽しみにしてるわ」

笑いながらそう言い残し
ホームの人混みの中に消えていった京極を
深い深い溜息をつきながら見送った私は
彼の笑顔の本当の意味を知らずに

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