秘密事 (ページ4)

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「俺はいいからさ、Aの話、他には？」
『なんでよ、何も無いって』
「いいからいいから」
『最近はライブ出て、ネタ作って、くらいだよ。
バイトも辞めたし、せいぜい安いスーパー見つけたとか？』
「面白いやつ」
『うわ、だる、えー、なんだろな…』

『あー、先週かな？あの、薩川も一緒だったやつ、一瞬、飛ぼうと思ったんだよね』
「え？」
『ライブ行く途中、歩道橋から車見てて、いきたくないなーって』
「それで飛ぼうって？」
『結局飛ばなかったけどね、ライブ出てたでしょ？』

こいつが一瞬動揺したのはすぐに分かった
何年一緒にいると思ってるんだ
その後無理矢理笑顔になったのも
サツマカワRPGがよくやってる、あの狂気的な笑顔じゃなくて
なんていうか、怖くないよー、とでも言うような

数年前、「芸人を辞める」と伝えた時と同じ顔で

「じゃあ、今度一緒に行こうよ」
『どこに？薩川と？』
「そう、俺が連れてくよ、Aが行きたいとこ、どこでも」
『忙しいんじゃないの』
「平気平気、A連れて俺も飛ぶから、上にね」

にぃっと笑みが深くなったこいつの後ろ
広がったカーテンの間から大きな月が見えた

また、こいつに行き先を決められた
自分はどんどん先に行く癖に
内心悪態をつく私の手は、今にもどこかへ連れていかれそうで、痛いくらいに握られている
何年も一緒にいるのにこいつの体温を感じたのは今日が初めてだった

連れ出してよ、月まで
どうにか着いてけるように頑張ってみるよ、私

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