秘密事 (ページ3)

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連れ立って月までページ3

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(r.satsumakawa)

八月にしては珍しく涼しい夜
数年前と同じ
夜風で浮いた前髪を気にしつつ目的地まで足を早めた

『ごめん、遅れた』
「全然いいよ、入って入って」
『お邪魔しまーす』

数ヶ月ぶりのこいつの部屋は、特に変わらない
ただ、人が訪ねてくるからと言って、変に綺麗にし過ぎない所が良くて、それが変わっていなくて安心した
これだけは私の特権だと勝手に思っていたから

「なんか、変な感じするな、Aが家にいるの」
『予定合わないって言って、しばらく宅飲みしてなかったからね』
「絶対この前ドタキャンしたの根に持ってるじゃん」
『いやいや、全然』

何年か前はライブ終わりに毎日のようにしていた宅飲みという名の雑談会も、今や月一回も無いくらい
片や賞レースファイナリスト、片や売れない女ピン芸人
当たり前といえばそうなんだけど

「最近どう？」
『なにそれ、いたって普通』
「いや、ライブめっちゃ出てない？バイトも辞めてるし」
『バイト辞めたからライブめっちゃ出てるだけ。生きてけないし。でもさ、バイトよりネタ作る方が全然楽』
「うわ、まじでやめろよーそういうの」
『いいんだって、これぐらい言わないと
薩川はめっちゃテレビとかラジオ出てるじゃん、すごいよ』
「いやー、ありがたいよねほんと」

そう言ってへらへら笑って、
わざわざ手を伸ばして取ったペットボトルに口をつけた
私のだよ、それ

同じピン芸人だからっていって、自分と比べて嫉妬するのはもうとっくにやめたけど、遠くに行くのは違うんじゃないの
近い所で戦い続けていられるから、こうやって二人で何でも話せたんじゃないの
画面の中でも変わらない姿を見ても、
もう戦う気が起きないんだよ
悪いけど

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