この世界で君は (ページ23)

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『廉？今から家に行くから、駐車場で待っててよ!』

　紫耀はそれだけ言うとすぐに電話を切った。

　確かに仕事があるから俺がいない可能性もあるが、わざわざ急ぐ紫耀が可笑しかった。

あと20分ほどでマネージャーが来るかもという時に紫耀が家に着いた。

平野「あぁ、良かった廉！」

　車から降りて、俺のいる方へ走ってくる。

「大吾は家で待ってるから・・・」

　緊張と恥ずかしさから、頭が真っ白になって気の利いたことも言え無かった。

　それでも紫耀は笑ってくれて、少しだけほっとする。

　
　マンションのエレベーターではなく、階段が良いという紫耀の意見から階段で家へ向かった。

　大きなマンションの上の方の階に住んでいるから、エレベーターで向かう方が絶対に楽だ。

　いつもは何を言われてもエレベーターを使うが、紫耀の隣にいれる時間が延びることに幸せを感じる。

　しばらく隣にいると緊張も解けてきて、子供の頃とほとんど変わらない気分になって話すことが出来た。

　それでも、お互いに昔と同じように出来るわけでもなかった。

　人間1人分空いている距離は、何年か前はなかったものだ。

　たまに生まれる沈黙もあの頃は生まれなかった。

　それが起こる理由を気づかないフリをしようとしてゆっくりと瞬きをした。

平野「なんか痩せたよね・・・大丈夫？」

　紫耀の優しさがあたたかい。

「大丈夫、きっと大丈夫や」

　いつか、紫耀のその言葉が別の誰かにかけられる日が絶対にくる。

　それまでは、隣で「大丈夫」って言わせて欲しい。