この世界で君は (ページ20)

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正門「ほんまに、ええんか？」

　正門が、捨てられた子犬のような表情で聞いてくる。

「大丈夫やから！事務所にも1人で行くって伝えたし」

　
　何度目かのやり取りでしぶしぶ正門は帰っていった。

　正門は夜から仕事があるのだから帰らなければならないと、西畑も理解しているからこそ我儘は言わなかった。

廉「寂しそうな顔すんなや～」

　2人きりになった後に、廉がおどけた様子で言ってくれた。

「そうやな・・・今は落ちこんどる暇なんてあらへんか」

　今日はジュリーさんと滝沢くんに、事情を話して会社を辞めなければならない。

「廉は西畑が事務所を辞めても、友達でおってくれる？」

廉「当たり前やん・・・それに、まだ辞めるって決まったわけやないし」

　廉はそう言ってくれるが、事務所の上層部の人間は男性妊娠に対する拒絶がひどいことで有名だった。

　退所は決定しているに近い。廉に悟られないように明るく振舞っているが、心は重く沈んでいる。

「ほな、送り迎えお願いしてええですか？」

　どんなに隠そうとしても廉には西畑の気持ちがバレバレだったらしく、悲しそうな顔で頷かれた。

廉「そやな、行こか・・・」

　廉が車の鍵を手にしたのと同時に廉の携帯が鳴った。

廉「はい、もしもし・・・あ、はい・・・分かりました、伺います」

　通話中の雰囲気から仕事に関わっていることが分かった。

廉「大吾、ほんまごめん！急に現場に呼ばれてもうた・・・」

予想通り、廉には仕事が入ってしまった。

「電車で行くから大丈夫やで、休みの日なのにこっちこそごめん」

廉が安心するように言ったが、思いっきり睨まれた。

廉「電車〜⁉何言うとんのや!危ないに決まっとるやんか！！」

　想像以上に過保護な廉につい笑ってしまう。

　過保護過ぎだとは思うが、マタニティーマークを付けられない西畑が、電車に乗るのはリスクが高い。

廉「ちょっと待ってや、車出せる人探すから…」

　必死に探してくれるが、西畑の事情を深く聞かずに送り迎えしてくれる人はいないに近い。

西畑も諦めそうになった時に名案を思いついた。

　

　