そ れ で も 歩 く 〜12〜

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・安田


数日後に迫ったLIVE。


今日は全員での収録があったけど、渋やんは1日お休み。



最近、収録の時は一緒に来て少しの間だけでもスタジオに入り、
観客からは見えない奥の隅の方で大勢の人に慣れる努力をしとった渋やん。



初めこそ、一歩足を踏み入れるのに躊躇したり、大勢の笑い声なんかに怯えて耳を塞いだりすることはあったけど、

今では30分くらい、スタジオの隅で俺らの様子を眺めていられるようになっとった。



でもLIVE直前の今日は、なんかあっても困るし信ちゃんから外出禁止令が出たそうで。



ゆっくり身体休め、また熱出るで、って脅された渋やんは、渋々それに従った。


渋やんも俺らも、相当注意深くなっとるんよ、時期が時期やからね。







身体の調子は悪くないようで、気持ちも落ち着いとる渋やん。


たくさん苦しんで、たくさん泣いて、今ここで穏やかに笑っとる姿が、嬉しくて。





苦しんどる渋やんを見ると、何も言えんくなってまうことが多かった。


割と、人を心配する気持ちはすぐ言葉で表すタイプやってんけど。



もちろん、慰めの言葉ならなんぼでも言える。


でも、それは所詮作られたもので。



キレイゴトの美しさに気付きながらも、それがキレイゴトと呼ばれる理由を、頭の何処かでわかっとった。


根拠のない“大丈夫”は、返って人を傷付けることやってあることも。



渋やんは、あまりそういうものを言葉では表さない人で。


ただ黙ってそばにいる、それだけで、何と無くでもちゃんと伝わる温かさ。


言葉になんか表さなくても伝わる優しさ、そんなものを持ちたい。


なんて話を、渋やんにしたことがあった。






“ちゃんと言葉で伝えられるのが、お前のええところ。

俺はただそれが、下手くそなだけ。



奥にある優しい気持ちが見えるから、お前の言葉は誰も傷つけん。

ただ真っ直ぐ伝えられることで、助けられることやってある”





渋やんの言葉に、なんでか俺が泣いてしまって。


それでええんやって、それがええんや、俺らしさなんやって言ってくれてる気がして。





ほら、渋やん、あなたはそうやって。


また俺の心まで助けてくれて。




そんな優しい人やから、俺らは離れられないんよ。

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