【34】 ページ34
*side優衣*
「‥もういいんですか？」
「ん？何が？」
夏のもわんとした生温い風が肌を撫でる。
「Aのことです。」
「あぁ。」
ちょっとだけ、気になっていた。
ちゃんと彼が、彼女のことを思い出に出来たのかが。
「心配しなくても、もう大丈夫だよ。」
「そうですか。」
「同じ大学に２人して入学して来た時は、
何の嫌がらせかと思ったけどね。」
やっぱり目尻をくしゃっとして、優しい顔で彼は笑う。
あの頃と何も変わっていないその笑顔は、やっぱり綺麗だった。
「葉山さんのおかげかもね。」
「え？」
「“泣け”って言ってくれたでしょ？」
「言いました、けど。」
「アレ、結構救われたよ。」
『我慢しないで泣けばいいじゃないですか。』
可愛げも優しさの欠片もないようなあんな言葉に、
どこに救いの要素があるんだか。
自分でももっと言い方あったでしょって反省したくらいなのに。
「‥相変わらず、無駄に優しいですね。」
「何が？」
いつだってこの人は他人の感情ばかりを優先して、
自分の感情は二の次にしちゃう。
「そんなに人のことばっかり考えてると、幸せ逃しちゃいますよ？」
「それは葉山さんもでしょ？」
「へ？」
二重の大きな瞳が、私を捕える。
いつの間にか辺りは暗くなっていて、空には星が輝いていた。
「もうちょっと、自分のこと考えていいと思うけど。」
「‥私はいつも自分のことばっかり考えてますけど。」
「俺にはそう見えないけどね。」
計算なのか。天然なのか。
「もっとワガママになりなよ。」
「‥そっちこそ。」
「お互い様か。」
ワガママになれ、なんて、こっちのセリフだ。
「早く彼女くらい作ったらどうなんですか。」
「葉山さんもね。」
「うっわ、女子にそういうこと言います？」
綺麗な笑顔で笑う人に、哀しい笑顔なんて似合わないんだから。
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作者名：和音
| 作成日時：2019年5月4日 17時
