それはあなたの最期の言葉でした。２【Satoshi.O】 (ページ38)

今日:8 hit、昨日:1 hit、合計:44,988 hit

◆◇６８◇◆ ページ38

　
　
・

・

どれか1つで見れば良いのに全員がそれぞれのスマホで見始めたから、部屋のあちこちで智の声がする。

ダイニングテーブルの椅子に座る雅紀の正面に翔も座ってその様子を見守る。

目の前の彼は最初から鼻水をズルズルとさせて泣いているのに対して、ソファーの左右の肘掛けにもたれかかって動画を見ている双子は静かだが、翔に背を向けている所為でその表情は伺えない。

目を閉じて懐かしい記憶を辿ってみる。

翔が大学1年だった頃の初冬、定期試験を終えた彼にと智が作ってくれた好物のオムライスの味は、未だに覚えている。

考えてみれば、あれが最初で最後の智のオムライスだった。

2人でサプライズで登場した雅紀の誕生日パーティーも、逆にサプライズで雅紀たちが登場した智の誕生日パーティーも、もちろん普段の何気ない会話も全て宝物で。

例え細かい会話の内容は忘れてしまっても、このかけがえのない思い出は消えることはない。

再び目を開けて現実に戻ると動画を見終えたと思われる彼らは皆泣いていた。

それを見て釣られて出そうになったものをぐっと堪える。

智はもうこの世にはいない。

それでも、彼を忘れずに覚えている限り彼は家族の心の中で、生き続ける。