閑話 ページ9
「これで必要なお話は以上となります。
また改めて書面にて本日お話ししたことについてをまとめてお送りしますのでご確認ください」
「うん、ありがとう」
トンっと机に広げていた資料をクロゥがまとめる。それを机端に置いて姿勢を戻すのを見てから口を開く。
「会長遅いね」
「……そうですね。長引いてるみたいです」
会長に諸々確認を取りたいのでこのまま待機してほしいと言われ、手持ち無沙汰になる。沈黙。別に苦じゃないけれどよく知りもしない相手、しかもこれから自分の部下になる人と面と向かって沈黙は少々重くのしかかってくる。精神的に。
「せっかくだし少し話そうよ」
「はい？」
急に俺が口を開いたからか、それとも何か思案していたのか、対面に座るクロゥは面食らった声を上げた。
「本日必要なお話は……」
「そうじゃなくて、もう少しプライベートなこと。
これから一応しばらく同じ事務所で働くんだし、お互いの人柄の把握？とかもうちょっとくらい砕けて打ち解けといた方がいいんじゃないかなって」
「はぁ……、わかりました」
煮え切らない返事だけど了承は得た。
「じゃあ無難に好きな食べ物とかは？俺は焼き鳥が好きだね」
「………知ってますよ」
「…えっ」
「有名じゃないですか、それ」
有名て。
あなたの好物なんてメディア情報収集やってたらいくらでも入ってきます。
ああ、そっか……。
「自分は……、特に食に関して好き嫌いはないです。
強いて言うなら、その季節に準じた食事が好きです」
その後も何問か質問を続けて、所々相手の素の表情が覗き始めたところでほんの少し核心に近い質問を投げてみる。
「なんでヒーローになったの」
「………」
「……えっと？」
何か拙いところに触れたかな？
「お茶を淹れてきます。まだ少しかかりそうですから」
「ああ、うん。ありがと」
席を離れ、距離を取ろうとした。ということは聞かれたくないことなのだろう。
まだお互いに距離を測っている段階なのに、急ぎ過ぎたか、と反省する。
「……________ら、です」
云々と考えていた所に戻ってきたクロゥが何かを言った。それは不鮮明で聞き取る事ができなかった。
「え、なに？」
「さっきの質問の答えです」
「ごめん、聞き取れなかった」
「いえ、笑えない冗談を言っただけなので」
冗談。冗談を？声に出すことはなかったが素直にそう思った。
けれどその時はそのタイミングで会長が現れたので「もう一度」とも返せなかった。
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作者名：上白糖 | 作成日時：2019年8月23日 14時
