6話，対面 ページ7
目的の部屋の前までたどり着き、軽くドアをノックする。
「こんにちは、お待たせしました」
「いえ、時間通りです。こちらこそお忙しい中足を運んでいただいてありがとうございます」
高くも低くもなく、だが礼節を弁えた落ち着きのある声が出迎えてくれた。その声の持ち主は前回初めて顔を合わせた例の青年だ。
室内をぐるっと見回すが会長の姿はなく、今日は彼女一人らしかった。
「会長は？」
「会長は急な来賓があったのでそちらに対応されています。30分程度で終わるそうで、後ほど合流されますが、それまでは自分一人で対応させていただきます」
「どうぞ座ってください」と促され、ふかふかのソファに腰を下ろす。
彼女はまだ準備するものがあるらしく、まだ席には付かず壁際に設置された棚へと目を向けていた。
「すみません、この時期はここも忙しくて」
「いえいえ分かってますよ。この時期はどこも忙しいですよね」
気にしないでください、貼り付けた笑みと共に多少のトゲを含んだ言葉で相手の出方を窺う。
しかし当の本人はさして気にした様子もなく、こちらの様子を一瞬窺ったが、「そうですか、ありがとうございます」と無感動に言っただけで手元の作業を止める事はなかった。
「(感情の起伏が読めない……それとも隠すのが上手いのか)」
顔合わせの時はあまり感じなかったが、やっぱり食えない(めんどくさい)タイプなのだろうか。
目良さんの「素直でいい子」はやはり信用できない、と溜息を吐きそうになりながら、ふと未だ作業を続ける背中を見て気づく。
「それ、コスチュームですか？」
手持ち無沙汰にそう尋ねると、視線を向けられることなく「そうですよ」と素っ気なく返される。
「一応、お見せしておこうと思いまして」
「へえ」
改めて彼女の後ろ姿を観察する。
黒が好きなのだろうか？全身その一色で統一されている。
唯一別の色が付いているものは、首元にかけられた黄色のゴーグルだけ。
自分と、対象的なコスチューム。
自分の時は、コスチューム諸々は公安へ丸っきり任せていたが彼女はどうだろう。
そんなことを考えながら、やっぱり頭の隅で「身体薄っぺらいなあ」と思ってしまう。
「カッコイイですね」
声に出したのは、当たり障りのない褒め言葉。
少し不自然な間を挟んで返されたのは、「どうも」の一言だけ。くるりとこちらを向いた顔から感じられるものは''無"。
声も纏う雰囲気も、何も揺れない。本当に笑わないなこの人。
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作者名：上白糖 | 作成日時：2019年8月23日 14時
