26話.限界 ページ28
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胸に抱き抱えると、子供の手は弱い力だがコスチュームを掴み返してくる。
どうやらまだ意識はあるらしい。
それを確認してもう一度、片腕と両足に個性を発現させ、片腕で推進力、両足で体の舵を切る。
水中に混じる小石や木の枝から子供を庇いつつ、不恰好に陸を目指す。
要救助者保護のため片腕が塞がっているから先程のトップスピードは出せないし泳ぎが安定せず、ふらつく。
いや、そんなことよりまず水中から出なければ。
「ぷはっっ」
水面から顔を出すと、目を瞑ったままの子供が詰めていた息を吐き出した。
子供の安全を第一に確保し川縁を目指す。
ようやく足が川底に着く浅瀬まで差し掛かり個性を解くが、体に力が入らず立ち上がれない。
不用意に立ち上がるのは危険だと判断し、殆ど腹這いの状態で進む。
ゆっくりと、確実に。
そのため完全に陸に上がる頃には身体全体におかしな震えが走っていた。
動け、もう少しだけ。
もう少しだけ。
「_______、くん！！！」
.
「ほごしゃの、かた……ですか」
子供が自力で身を起こしているのを視認し、緊張の糸が切れる。
すべての音が遠い。けれどサイレンの音と駆け寄ってくる誰かの声だけは聞こえた。
「よかった……とりあえず救急車で病院へ…」
それ以上の言葉が続けられない。
どうやら、限界のようだ。寒い。
「………ほーくす」
霞んで暗くなる視界の中、赤い羽根が見えた気がした。
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作者名：上白糖 | 作成日時：2019年8月23日 14時
