22話.不調 ページ24
.
さらに数週間過ぎ、梅雨入りの季節に差し掛かった頃のこと。
ぐず、と鼻を啜る音が静かな事務所内に消えた。
「クロゥ、だいじょうぶ？風邪?」
「……だいじょおぶです」
「絶対嘘じゃん顔も赤いし」
.
オフィスで書類仕事をこなしていた所員達が口々にクロゥへと心配の声をかける。
しかし当の本人はさして大したことではないかのように黙々とPCに向かい、終いには資料を取りに行くと言って覚束無い足取りで資料室までの道を進もうとする。
「クロゥ」
「ほーくす？」
見兼ねて何か一言言ってやろうと近づいたが、その舌ったらずなその口調に何故か胸がざわづいた。
「他に移したら迷惑。
不調に気づいたら自己申告。
そもそもそんなになる前に適度に休む。
.
ほら、病院行ってき……」
そこまで言ってしまって、はた、と気づく。
仮面で表情が見えないにもかかわらずいつもの達者な口を噤み、目の前の存在が呆然と立ち竦んでいることに。
「……すみません」
なにか、弁明を。フォローを。しかし言葉を探しているうちに、先に彼方から言葉が落とされた。
場が静まり返る。
「ホークス、言葉キツイですよ」
「そーですよ。気乗りしない書類整理やらされてるからってクロゥに八つ当たりしないでくださいよー」
「大人気ない」
「クロゥのこといじめんでくださいよー」
そんな言わんでも………。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 169人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：上白糖 | 作成日時：2019年8月23日 14時
