お茶を飲む ページ5
童磨 (人であった頃)
他の女の子よりも少しだけ別嬪のAは、可哀想に親に虐められていた。
でも傷を隠そうとする彼女の反応があまりに可愛いものだから放っておいていたのだけれど、顔に傷をつくってきたときは流石に彼女の両親を咎めるような言い方をした。それが正しいことだと思ったんだ、少なくとも。
でも、それがいけなかった。その両親は僕を崇拝していたからたちまち首に縄をかけて死んだ。
＿＿結果的には幸せなことだと思ったけれどAは目を赤く腫らしている。
「私がいけなかったの……もっときちんと耐えていれば」
違うだろう。手を上げる大人が悪いのだろう。心優しい馬鹿な彼女はそんなこと考えつきもしなかったのだと安易に想像できた。
可哀想に。僕に意識を向けられたばかりに。
「これでも飲んで元気出して」
そっとお茶を彼女にあげると、お礼にと無理に渡してきた簪を僕に渡してそのまま行方がわからなくなったけれど。
鈴のような声が聞けなくなるのは少しだけ、ほんの少しだけ残念だったなァ…
猗窩座 (人であった頃)
｀親父に薬を届けに行くんだ｀
彼は屈託ない笑顔で誰かから盗った財布の銭をかぞえて、それから薬代だけがま口にいれると後は私に寄こした。
身寄りがなく、小汚い私もまた人から物を盗まなくては生きていけないのだ。
でも数日姿を消したと思えば現れたときには親父が自分で手をかけたと吐き捨てて血が滲んでいる拳を見て、誰かを殴ったのか己を憎んで傷つけたのかはわからないけれど、金がないばかりに本来幸せであるべき彼が不幸せになった事実にひどい胸焼けを覚えた。
だから、些細なことにすぎないけれど使い走りを仕事とする知人に頼んで、貯めていたお金からお茶代を引き出した。
「大丈夫、狛治は報われる。罪人の墨があったって分かる人には分かるんだ。あんたは正真正銘良いやつだ」
なんて訳のわからない励ましをして、はじめて笑みを漏らした彼に気づかれないように恋心を蓋にする。
＿＿もう自分の体が長くないことを知っているから、きっともう会えない。
「そうだ、泊治。これを持っていてくれ。親友の証だ」
彼に鈴を渡す。小さな鈴。
幸せになりますようにと、願いを込めた贈り物。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
作者好みの選抜です。続きます
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作者名：稜一 | 作成日時：2019年10月2日 1時
