Sweet × love…!

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お父さんはよく
お母さんと喧嘩をしていた。



最初に気づいたのは
私が幼稚園に入ったばかりの頃。

夜中に声が聞こえて起きると
寝室のドアの隙間から
お父さんの怒鳴り声が聞こえて。

お母さんが、泣いていた。

昔の記憶だけど
その光景ははっきりと覚えている。



最初は夜遅くに聞こえてたのに
段々と私たちが起きている時間にも
喧嘩が始まるようになって。

今思うとあれは、
喧嘩というよりはお父さんからの
一方的な攻撃だったのかもしれない。



夏も近づいてきて蝉が鳴き始めた頃、

いつも一緒に帰る友達が
急ぎの用事で先に帰ってしまったから

その日は一人で学校を出た。



途中で肩をトントンとされて
振り返ると、黒いランドセルを背負った
たいちゃんがいた。



「…たいちゃん！」


「今日は一人なの？おれも！」



久しぶりに一緒に帰ることになって嬉しい。

引っ越すの、いつかわかんないけど
もう会えなくなるのかな…？



「おれ今日さー宿題わすれちゃって……」



楽しそうに学校の出来事を話してるのに

私はどうやって笑えばいいか
わからなくなっていた。



「どうしたの？おなかいたい？」


「え、ちがう、いたくないよ」


「なんか変だよ？」



少し疑いの目を向けつつも
またさっきの話を続けるたいちゃん。

あっと言う間に
私の家に着いてしまった。



「じゃあ、バイバイ」


「うん、学校で！」



…それが、最後に
たいちゃんと一緒に帰った日になった。



夏休み、
学校のプール開放に
友達と行って家に帰ると



「Aおかえり。
　持っていきたいものがあったら
　ここのカバンに入れておいて」


「…どこに行くの？」


「今から、新しいおうちに行くの」


「…夏休みだから？」


「9月からは、
　向こうの学校に通うよ」



…それって、
どういうことなの？



妹の佳奈は
旅行用の大きめのリュックに
楽しそうに荷物を詰めている。



違う、これは旅行じゃないよ。



もうここに戻ってこないってことだよね？



「おかあさん、あのね」


「どうしたの？」


「わたし…たいちゃんにお別れしてない」


「たいちゃんちは今週いないの。
　旅行に行ってるんだって」


「えっ…」


「たいちゃんのお母さんに
　引っ越すことは言ってあるから」



いつかまた会えるよ、
そう言われて急に悲しくなって



「やだ！たいちゃんに会う！！」



お母さんが困るくらい
わたしは泣き喚いた。



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