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あとは2人でごゆっくり〜!
なんていらない気を使った母親が僕らを外へと追いやった。
────────僕は…言えるのだろうか。
君に、伝えられるのか。
『もう、ころんってばなんも連絡なしに教師になっちゃってさ〜!』
隣の彼女は化粧なんかしちゃって髪色も明るくなっていて、僕の知らない幼馴染になっている。
Aにとっても僕は、そうなのかな。
「…そっちこそ、なんも連絡寄越さなかったくせに」
春を匂わせる風は、いつもどことなく寂しさと期待を纏っている。
いいや。多分、僕だけがあの日と変わらないんだ。
何も成長していない。
何一つ変わっていないんだ。
だって、手を伸ばせば届く距離に君がいるのに、
何も出来ない弱っちい男なんだから。
『うわぁ!懐かしすぎる!』
Aは急にふわっと足を踊らせ街を駆けた。
──────まって!
咄嗟に伸びかけた手は空中を掠めて消えてゆく。
そっか。もう、君は大人なんだね。
僕だけが過去に囚われている。
あの頃は君が僕を追い掛けていたのに、
今じゃ僕が君を追いかける番なんだ。
しかも────────
一 生 君 に は 追 い つ け な い 。
『ころん?』
ふわっと優しく振り返るAは世界一美しい。
ぶわっと感情が込み上げてきて、滅茶苦茶にしてやりたい衝動に駆られる。
「…Aっ」
ザッと視界がふいに遮られる。
僕と君の間を田舎臭いバスが遮った。
再び視界が開けたあと、君の姿は消えていた。
僕は慌てて小さな交差点を渡って彼女の名を小さく頼りない声で呼んだ。
『ここだよっ!びっくりした?』
「ガキくせぇことやってんじゃねぇよいい歳こいた女が」
僕は優しく笑ってAの柔らかな髪に乗っかった小さな葉を取り除いた。
フェンスの垣根からわっと顔を出した君を見ればやっぱりまだ成人したとは思えなくて、記憶がどんどん遠ざかっていく。
すき。
すきだ。
どうしようもないくらい、泣きそうなくらい好き。
僕の気持ちがこんなにもひとつのものに支配されてしまうのは
僕が恋した最初で最後の女が
"あなただから"
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眠民。 - ころんさんの小説久々にみたのですが‥雰囲気大好きです🤞🏻🤞🏻私的にはハピエンだと思いました。 (2月8日 18時) (レス) @page39 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
なむなむ(プロフ) - すんごく良かったです!私は最後少しモヤモヤしちゃったんですけど、おもしろかったです!\(^-^)/ (2023年4月14日 17時) (レス) @page39 id: da249a0fb7 (このIDを非表示/違反報告)
ふわち - 読んでるとき、思わずないちゃいました…。すごくおもしろかったです! (2022年8月19日 11時) (レス) @page39 id: ed311d2c92 (このIDを非表示/違反報告)
かな?(プロフ) - かけちゃってるんですから。恋って、すごく苦しいものだけど、このお話の恋はその中でも苦しかったです..。報われないなって。長くなっちゃいましたが、考えられるお話をありがとうございました! (2022年8月17日 9時) (レス) id: 1a1d4d0288 (このIDを非表示/違反報告)
かな?(プロフ) - 颯桜さん» このお話、読んでて本気で泣きそうになりました。すごく切なかった...。映画化してほしいくらいですw人間の汚いところとか、逆に苦しいくらいに綺麗なところとか、本当にぐわってきました。ハッピーエンドかもしれないけれど、残酷ですよね。人生の半分を幼馴染に (2022年8月17日 9時) (レス) @page38 id: 1a1d4d0288 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:颯桜 | 作成日時:2020年10月3日 20時