検索窓
今日:1 hit、昨日:4 hit、合計:114,917 hit

1 ページ1






「ねぇ永瀬くん。」


木曜日の昼下がり
隣の席の佐田Aが突然俺を呼んだ。


前では熱心な教師が
カツカツと快活に 黒板へと記していく。
6時間目の数学の時間。



「…なに、いきなり」


男女問わず人気者で 皆からの推薦により
俺ら3年2組の学級委員長なんかも務めてる彼女は
俺の方を見ながら その特徴のある茶色い目玉を揺らす。


初めて話しかけられたことに、
さらにそれが授業中だったことに、

俺は久しぶりに 鼓動の早まりを覚えた。



「カニバリズムって知ってる?」

「………は?」



初めて交わした言葉は
俺にとって 難解なものだった。
何をいきなり、というのが本当の第一印象だ。


俺は黒のHBのシャープペンシルを机に置き
彼女の顔を見る。彼女はそんな俺を
また、じっと見つめ返してきた。


「どう?この本にいきなり出てきたんだけど。」


そう言って随分と薄い表紙の文庫本を見せる。
2年前くらいに爆発的に売れた、
涙無しでは見られないような恋愛小説だ。



「佐田さん知らないの?」


佐田さんは人気者なだけじゃなく
頭だって良いはずだ。
その証拠に 廊下に貼られる学期末試験の順位表には
背伸びなんてしなくても見える位置にいつも名前がある。


「人が人を食う習慣のことだよ。」


上位20人しか張り出さないから
もちろん、俺は載ったことない。
でもカニバリズムは
そんな俺だって知ってる、そんなに難しくはない言葉だ。


「あ、ほんとだ。次に書いてあった。」


クスッと笑みを零した。
まるで笑う予定にしていたようだった。

なんとなく腑に落ちない俺を無視して
彼女は前を向き、本を読み進める

俺はそんな彼女を無視して授業に戻った。


空は青く、雲はほとんどない
まっさらに眩しい夏のはじまりの日だった。

・→



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (267 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
592人がお気に入り
設定タグ:永瀬廉
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

霞草(プロフ) - ciels0604さん» コメントありがとうございます!有難いお言葉をいただきます、しっかり胸に留めて毎日を過ごしたいと思います。貴重な時間をこの作品に、ありがとうございました(;_;) (2019年3月7日 17時) (レス) id: 402b5f83f6 (このIDを非表示/違反報告)
霞草(プロフ) - ともなさん» コメントありがとうございます!言葉を届ける機会があってこういう形で繋がれて感謝です…ありがとうございます! (2019年3月7日 17時) (レス) id: 402b5f83f6 (このIDを非表示/違反報告)
ciels0604(プロフ) - 完結おめでとうございます。これを書いていたのがまだ、高校生だったとは驚きました。子供と大人の間を生きる微妙な時間はもうないです。大人になるに連れて見なければいけない現実があります。同じ時間は二度と戻って来ないので今を大切に生きてください (2019年3月6日 1時) (レス) id: 4086de47ce (このIDを非表示/違反報告)
ともな(プロフ) - 更新お疲れ様でした。ほんとに素敵なお話でした。最後のページの霞草さんの言葉が今の私には強く心に刺さりました。涙が止まりませんでした。素敵なお話と言葉を届けてくださってありがとうございました。また作品楽しみにしています! (2019年3月5日 22時) (レス) id: 65acdc1e61 (このIDを非表示/違反報告)
霞草(プロフ) - こんばんはさん» コメントありがとうございます!少しでも恩返しが出来たらとおもいます、これからを頑張ります! (2019年3月5日 16時) (レス) id: 402b5f83f6 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:霞草 | 作成日時:2019年2月25日 6時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。