恋雪の隣 ページ8
言おうとした言葉も言えなくなった。
恋雪の顔が見る見る内に赤くなっていき、周りの男たちがゲラゲラと腹を抱えて笑う様子に俺はただ立ち尽くしていた。
「えーっ、恋雪ちゃん狛治ともうやってんのかよ!!ww」
「皆さんここに非処女がいます!」
「ちょっと……やめっ…」
そう言う恋雪の顔は。
先刻まで俺に向けられた笑みは。
可哀想な程に潤んでいた。
耐えられなくなった俺は近くにいた男の胸ぐらを勢いよく掴んだ。
勢いに負けた男はそのまま尻もちをついて倒れた。
「なっ…何すんだ猗窩座ァ!!」
その男の周りにいた男が俺を剥がそうとしたのを見て、俺は叫んだ。
「死にてぇのかお前ェ!!!!」
目の前の男の息を飲む音を聞いた。
泣いても許しを乞うても許す気はない。
「恋雪はあっち行け」
「で、でもっ…」
「いいからあっち行ってろ!!」
この男たちと恋雪をそれ以上会わせたくなかった。
俺は拳を高く振り上げそいつの頭部に殴りかかろうとした。
「猗窩座」
「……っ!?狛治っ…」
「何をしているんだお前は」
なんてタイミングで現れるんだお前は!!
「おいっ、狛治がきたぞ!逃げろ!!」
逃げる様に帰って行った男たちに恋雪は心底ほっとしていた。
狛治は訳が分からないと言った様子で首を傾げていた。
「何があったんだ、猗窩座」
「別に…」
「狛治さんっ!猗窩座さんは私を助けてくれて、それで…っ」
恋雪が言い終わる前に狛治は恋雪を抱きしめた。
ドク、と心臓が高鳴る。
「分かってます。猗窩座は理由もなく喧嘩するような奴じゃないから。恋雪さんが怪我でもしていたらと冷や冷やしましたが、そうでないようで良かったです」
「狛治さん……」
「一年の教室まで送ります。さぁ、行きましょう」
「すみません狛治さん。あっ、猗窩座さん!」
苦い想いが込み上げる。
狛治と恋雪を見る度に、胸が締め付けられる。
「先程は本当にありがとうございました!!」
嗚呼、苦しい。俺だって、俺だって狛治なのに。
ずっと、好きなのに。
俺は、猗窩座なんだ。
「…へぇ」
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作者名:山口 | 作成日時:2020年12月6日 9時