時計の針は戻らない - 虫眼鏡(東海オンエア) ページ7
蝉の声が響き渡る中、僕は山中にある長い階段を上っていた。こめかみから伝う汗が気持ち悪い。
8月中旬。世は夏休み。
僕には決まって、訪れる場所があった。
……あれはもう、3年も前の話。僕には気になる女の子がいた。
撮影で手首を骨折し、通院していたあの時期。そのときに病院内で出会ったのが、その女の子、Aちゃんだった。
彼女は僕のような“ちょっと馬鹿やった結果、病院にお世話になることになった人”ではなく、“生まれつき体が弱いがために、定期的に病院に来なければいけない人”だった。そのため彼女曰く「友達って呼べる人も少なくて……あなたに出会えて、本当によかった」らしい。
読書や映画鑑賞が趣味だと言う彼女とはよく話が合った。し、話していてその知識量に驚かされることも多々あった。普段話すのがなんとかオンエアとかいう馬鹿ばっかり(一部を除く)だから、僕にとってAちゃんとの会話は新鮮で楽しかったのだ。
しかし、そんな小さな幸せはそう長くは続かなかった。
僕が退院する頃、Aちゃんの容体が急変したのだ。
基本的に医者っていうのは他の患者のことをいくら聞いても教えてくれない。だけど彼女の担当の先生はこそっと僕に教えてくれた。
「あの子はよく頑張ったよ。
……もって、あと数日だろうね」
と。それはあまりにも残酷すぎる宣告だった。
そしてその2日後、その宣告どおり、彼女は還らぬ人となった。享年21。あまりにも若過ぎる死だった。
Aちゃんは、家族に僕のことを話していたらしい。彼女のお母さんやお父さんから、僕は何度も「ありがとう」と感謝された。
何も、何もしてあげられなかったのに。
彼女がいなくなって、僕は初めて気がついた。僕よりいくつも年下のあの子の存在が、僕の中であまりにも大きくなりすぎていたことに。
息を切らしながら最後の段差を上りきる。目に映ったのは、僕らやAちゃんが愛した岡崎の町と、彼女が生きた証だった。
“虫さん”と呼ばれがちの僕を、本名で呼んでいた数少ない子。触れた彼女の墓石は、あの日の彼女の手のように冷たかった。
「……毎年、ここに来るたびに思うよ。
君がもっと……最低な人間だったら、よかったのにって……」
段々声が涙交じりになって、息が苦しくなって。最後はほとんど声にならなかった。
3年目の命日。
僕は初めて、君の前で無様に泣き崩れた。
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RiA(プロフ) - さささ。さん» わあぁありがとうございます〜!そう言っていただけると励みになります! (2019年4月10日 22時) (レス) id: 03fac5b4f8 (このIDを非表示/違反報告)
さささ。(プロフ) - いつも楽しく読ませてもらってます〜!切ないお話も明るいお話もとても素敵です! これからも楽しみにしてます! (2019年4月10日 22時) (レス) id: 1d0b48d693 (このIDを非表示/違反報告)
RiA(プロフ) - りさん» こちらこそありがとうございます〜!ワガママなんてとんでもない!こちらこそ推しとか言いながら本数少なくて申し訳ないです… とりあえず次のお話はともやんで書かせていただきますね! (2019年4月6日 21時) (レス) id: 03fac5b4f8 (このIDを非表示/違反報告)
り - コメント失礼します…すごく好きなお話ばっかりで何度も読み返してしまう…!!ともやん推しなのに推し以外のお話もとっても素敵できゅんきゅんします。ありがとうございます…ともやんとのお話がもっと読みたいなぁだなんてワガママでしょうか…? (2019年4月6日 0時) (レス) id: 88a87d53f0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:RiA | 作成日時:2019年3月12日 18時