【CR】短編集 (ページ8)

今日:45 hit、昨日:37 hit、合計:162,652 hit

おやすみ、また明日【Ras】ページ8

ぽろぽろと溢れた雫を、何度も人差し指で掬う。
見慣れた部屋の中、ぽつんと置かれたベッドの中で丸まった彼女をあやすように、布団ごとぎゅっと抱きしめて、ポンポンと背を撫でれば、また一粒ぽろりと雫がこぼれ落ちた。
ごめんなさい、とか細く謝り続ける彼女の背を撫でながら、小さく優しく、大丈夫ですよ、と囁く。
この気持ちは、一体どうしたら彼女に伝わるんだろう。

――――

空港でAさんを見つけた時、嬉しさで爆発しそうだった。
忙しいAさんが遅い大型連休をもぎとって、韓国に行くね！と通話で言われた時、思わず"……ドッキリ、ですか？"なんて間抜けなことを聞いてしまって、けっこう、いや、酷く笑われて少し恥ずかしい思いをした。その事を前日どころか、飛行機に乗る直前までからかわれたけれど。
それもこれも、彼女が目の前に立って、笑って、小走りにこちらにやってくるのを見れば、もはやどうでもいいことだ。

「Aさん！ようこそー、いらっしゃいませー」
「Rasー！会いたかったー！」
「あははー、俺も、会いたかったですー」

俺の両手を握ってぶんぶん振るAさんを見て、ああ、本当に彼女が目の前に居るんだなあ、と実感がわいて、自然と口角が上がっていくのがわかる。

「それにしても、Aさん。元気ですね？お仕事、終わったばっかりでしょー」
「激務だった！でも、Rasに会えたから平気！元気！」
「はははー、それなら良かったです。じゃあ、行きます？ええ、と、Aさんの好きなアーティストの」
「うん！絵画展！」

Aさんのキャリーケースを取って、取り戻そうと彷徨った手をぎゅっと握る。
この手はこっちねー、と言えば、彼女はなんだか嬉しそうな恥ずかしそうな顔を隠すようにそっぽを向いて、小さく、ありがと、と言った。
絵画展へ行く道すがら、絵画展行って、ハンドメイドの雑貨屋さん寄ってもらってー、と今日の予定を指折り数える彼女を見て、うんうん、と相槌を打てば、Aさんはこちらを見上げて、大丈夫？疲れない？と不安げに聞いてくる。
大丈夫ですよ、と言えば、ちゃんと疲れたら言ってよね！と元気よく笑っていたのに。

どうして、あなたは言ってくれなかったんですか。

「……？Aさん、大丈夫ですか？」
「うん？大丈夫、だよ？」
「……Aさん、顔が赤いです。今日は帰りましょう？」
「……やだぁ…」