【CR】短編集 (ページ41)

今日:42 hit、昨日:37 hit、合計:162,649 hit

● ページ41

「……聞きたくない、です」
「…え？」

思わず出た本音に、咄嗟に口を手で押さえたけれど、もう遅い。Aさんの、えっと、とか、んっと、とか戸惑った声を聞きながら、どうやって繕えばいいか必死に考えていると、Aさんが"やっぱりご迷惑、でしたか？"と、消え入りそうな声で呟いた。

「っ、違う！そうじゃない、違います！今のは俺が悪くて、…っ」
「"えっと、あの、Rasさん…？その、ごめんなさい。ゆっくり…お願いします"」
「"…すみません。違うんです。今のは、いえ、全部俺が悪いんです。今のも、そうして、今からも"」
「"…今からも……？"」
「"はい。…まず、俺が今から何を言っても、Aさんのお手伝いはしたいです。いいですか？"」

俺の意味のわからない言葉に、Aさんは未だ戸惑いながらも、"わかりました"と頷いてくれた。
そう、どんな結果になっても、それだけは変わらない。彼女の手助けはしたい。最後まで。たとえ、俺のこの気持ちが受け入れられなくても。

「"…Aさん"」
「"はい"」
「"俺、Aさんの事が好きです。人としても、…女性と、しても"」
「"……、……えっ？"」
「"あなたに『大好きな人』が居るのは十分わかっています。それなのに、こんな事を言ってしまって、すみません。それでも、俺は"」
「"あ、あのっ、ちょっと、待って、待って下さい…っ"」

通話の向こうで、ガタガタと何か物音が聞こえた。驚いた彼女が、わあ、だとか、うう、だとか意味のない言葉を零しながら、必死に俺が言った言葉を飲み込もうとしている。
"忘れて下さい"と笑いながらそう言った。飲み込まなくていい、吐き出して、忘れてしまって構わないと、そう言えば、意味をなさない言葉がピタリと止んだ。

「"…どうして、そんな事を言うんですか？"」
「"どうして？だって、Aさんは困るでしょう？『大好きな人』が居るのに、こんな事を言われるのは"」
「"……そんな事、ないです。困るというかびっくりはしました、けど…でも…"」
「"俺のわがままです。言ってスッキリしました。最低ですけどね。さ、続きをしましょう"」
「"私、忘れないですよ。だって、本気で伝えてくれたんでしょう？"」
「"…本気じゃなきゃ、『大好きな人』が居る相手にこんな事言えませんよ"」
「"だったら、私は忘れません。嬉しいです"」
「"…っ、でも！"」