● ページ35
「"おい、誰だよ。歩きで行こうなんて言った馬鹿わ。お前か?CPT"」
「"僕じゃない!Rasだよ!"」
「"せっかくだから、街歩きしたかったんだよぉ"」
「"人やっばぁ"」
異国の地で、男四人、並んで信号待ちをしている。
チームの事務所が出来たらしく、それのお披露目会にわざわざやってきたわけだけれど、それにしても日本の中心街を舐めていた。どこを見ても人、人、人の山。電車なんて死ぬ程人が乗っていて、Mondoが終始ずっとキレ散らかしていた。
丁寧に書かれた地図と順路を照らし合わせながら、文句も言われながらRasが、"ツアーの皆様ぁ。こちらになりまぁす"、なんてフザケてるのが純粋に凄い。クソガキは体力が無限にあるらしい。
パッと、信号が変わった。その途端、ぞろぞろと俺達を巻き込んで人混みが動いていく。
もちろん、向かい側からも人が歩いてくるので、それを避けるのが結構大変だ。男四人で並んで歩くわけにもいかず、ばらばらに人混みの中を縫うようにして渡っていく。
「…っ、…A……?」
信号を渡り切る寸前、点滅する信号に慌ててすれ違う人混みの中に、見覚えのある顔が居た気がした。いや、気がしたなんてもんじゃない。一年、二年経ったって、何年経っても間違えるわけがない。
思わず振り返って、懐かしい名前が零れ落ちたけれど、その人物はもう赤に変わってしまった信号を渡りきって、ほっと一息ついているのが見えた。
鞄から携帯を取り出して、どこかにかけている。何かを話している。日本人って、なんで電話しながらぺこぺこと頭を下げるんだ。Aもよくやっていた。そうして、沈んだ顔をしたり怒ったりしながら、俺に、聞いて聞いて!とせがんできて。
けれど、それももう、無い。多分、この先、一生。
そんなに遠くない横断歩道の向こうで、電話を切ったAが俯いた。ああ、また泣くのかな、なんて思っていると、ぱっと顔を上げたAが、あんまりにも強い顔をしていたので、俺は二度三度瞬いた。そのまま、よしっ、と言わんばかりに小さく握り拳を作って、はっとした顔をしたかと思うと、恥ずかしそうに人混みに消えていった。
「……いいねぇ」
思えば、やると決めた時の強い瞳が好きだった。曲げない折れないその心が好きだった。
あれから少し経ったけど、好きだった彼女は変わらず、愛した彼女のままだった。
願わくば一生、そのままであるように。
―――
リクエスト【別れるSellyさんと夢主】でした。ありがとうございました。
751人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「CR」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:空色 | 作成日時:2022年1月6日 13時