【Zeder】 ページ31
なんだかふわふわしたテイストの店内には、沢山の人が今か今かと、頼んだものが届くのを待ち侘びている。
それは目の前に座るAも同じようで、もう注文したのにテーブルに置かれたメニューを開いては、こっちも良かったなあ、なんて言っている。
そのメニュー表には、大きく【バレンタイン限定!チョコレート特集!】なんて書かれていて、その文字列だけでも頭が痛くなりそうだった。
確かに、彼女が、バレンタインなので黙ってついてきて!といきなり言い出した時、その勢いに気圧されて頷きはした。頷きはしたけれど、まさかこんな所に連れて来られるなんて思いもしなかったのだ。
「頷いたでしょ、オッケーだしたでしょ。諦めてZeder。味は保証するから」
「うーん…わかったよ…。"とんだバレンタインだなぁ…"」
「何言ってるか全然わからないけど、顔に出てるよ、Zeder」
「あやぁ……」
その後、運ばれてきたスイーツは、まあAが言う通り美味しくはあった。そんなに量が食べられないから、一番量が少なそうなガトーショコラを選んだ俺とは違って、Aは重ねられたパンケーキに、これでもかと言わんばかりにチョコソースがかかっているのを、それはそれは美味しそうに食べていた。
カランカラン、とベルの音を聞きながら店を出た。
隣を歩くAは少し不機嫌気味に、繋いだ手をぶんぶんと振っている。理由は、今日はバレンタインだから、自分が会計を持つ!というAの手から伝票を抜き取って支払いをしてしまったから。
「バレンタインだから、私が出すって言ったのに…」
「べつに、バレンタインとか、関係ないよ」
「プレゼントしたかったの。大体、私が食べたくて無理に連れてきちゃったし」
「…うーん。それなら、別をちょうだい」
別?何を?と、歩くのをやめて見上げてくるAを、じいっと見つめる。知らないと思ったの?と笑えば、首を傾げていたAの顔が、まさか、と言いたそうな表情になった。
「Aのチョコレート、俺、楽しみしてたよ?」
「いや…でも、美味しいの食べたじゃん?」
「店のは、いいよ。Aのが、いい、ね?」
毎日こっそり不安そうに作っていたのを知っている。焦げたり形が崩れたり。でも、"どんなものでも、Aからのが一番だよ"と言えば、Aは赤い顔を隠すようにそっぽを向いて、何言ってるかわからないけど、わかるよ、と言った。
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作者名:空色 | 作成日時:2022年1月6日 13時