検索窓
今日:11 hit、昨日:37 hit、合計:162,618 hit

歌って【Selly】 ページ3

KARAOKEは好きじゃない。
別にそれを楽しむのは個人の自由だから、否定はしないけど、音楽は聞くものだと思ってるし、そもそもそれ、外国語だから何を言っているかわからないし。
それでも、朝ご飯の片付けをしている時に、洗濯物を畳んでいる時に、買い物の帰り道に、歌っている君をじっと見下ろして、それに気付いた君が笑い返してくれるのは、まあ、悪くはない。




――――


「……A、ほんとう、歌うことするの好きねえ」


Aが居る間は、すっかり彼女の砦になってしまったキッチンで、今日もご機嫌に歌うAにそう言えば、Aは、んえ?とかよくわからない声を出して、首を傾げる。


「私、今歌ってた?」
「歌う、……うた、ってた」
「ありゃまー」
「A、キッチン居る時、よく歌うことしてるよ」
「本当に?やばあ、なんか恥ずかしいなあ」


そう言いながらカチャカチャと皿を洗い始める。水音と皿が乾燥機にカチャン、と置かれる音。
それを聞きながらじっとAを見ていれば、またその口から小さく外国語が滑り出てくる。
昨日と同じリズムに、きっと同じ曲を歌っているのだろう。激しい曲というよりも、どちらかと言えば静かな、悲しくて優しい曲。
聞き取れる単語が少ししかないから、歌の意味はほとんどわからない。けれど、感情が全部顔に出てしまうAは、歌っている時もそうらしく、繰り返し聞こえる歌の終わり際、本当に悲しそうな顔をして、それでいて優しい声で歌うから、きっとそんな曲。
日本ではきっと有名な曲なんだろうなあ、とか思うけど、俺はもちろん聞いたことがないので、俺にとってはこれは、Aの曲だ。隠す事が何一つ出来ない、素直で、素直すぎてちょっと心配になる。そんな優しいAの曲。


「……俺、配信してくる」
「はあい。頑張ってねー。今からだと終わったらお昼前かあ。買い物行ってきても良い?」
「はあ?なに、なんで、それ一人で行く、こと?」
「え、うん。だめ?」
「だめだけど。俺と行くのがいいじゃん。待ってろ」
「んん?お疲れなSellyさんを気遣ったつもりだったんですがぁ」
「待ってろ」
「はいはい、わかった。わかったってば」


水が滴る手を振って、いってらっしゃいをする彼女に頷いて、ソファーから立ち上がる。
今日は何をしようか。LOLもAPEXも配信で一人、だらりとやるには、少し、いや結構、面倒くさい。

○→←●



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (170 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
751人がお気に入り
設定タグ:CR , CrazyRaccoon   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:空色 | 作成日時:2022年1月6日 13時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。