歌って【Selly】 ページ3
KARAOKEは好きじゃない。
別にそれを楽しむのは個人の自由だから、否定はしないけど、音楽は聞くものだと思ってるし、そもそもそれ、外国語だから何を言っているかわからないし。
それでも、朝ご飯の片付けをしている時に、洗濯物を畳んでいる時に、買い物の帰り道に、歌っている君をじっと見下ろして、それに気付いた君が笑い返してくれるのは、まあ、悪くはない。
――――
「……A、ほんとう、歌うことするの好きねえ」
Aが居る間は、すっかり彼女の砦になってしまったキッチンで、今日もご機嫌に歌うAにそう言えば、Aは、んえ?とかよくわからない声を出して、首を傾げる。
「私、今歌ってた?」
「歌う、……うた、ってた」
「ありゃまー」
「A、キッチン居る時、よく歌うことしてるよ」
「本当に?やばあ、なんか恥ずかしいなあ」
そう言いながらカチャカチャと皿を洗い始める。水音と皿が乾燥機にカチャン、と置かれる音。
それを聞きながらじっとAを見ていれば、またその口から小さく外国語が滑り出てくる。
昨日と同じリズムに、きっと同じ曲を歌っているのだろう。激しい曲というよりも、どちらかと言えば静かな、悲しくて優しい曲。
聞き取れる単語が少ししかないから、歌の意味はほとんどわからない。けれど、感情が全部顔に出てしまうAは、歌っている時もそうらしく、繰り返し聞こえる歌の終わり際、本当に悲しそうな顔をして、それでいて優しい声で歌うから、きっとそんな曲。
日本ではきっと有名な曲なんだろうなあ、とか思うけど、俺はもちろん聞いたことがないので、俺にとってはこれは、Aの曲だ。隠す事が何一つ出来ない、素直で、素直すぎてちょっと心配になる。そんな優しいAの曲。
「……俺、配信してくる」
「はあい。頑張ってねー。今からだと終わったらお昼前かあ。買い物行ってきても良い?」
「はあ?なに、なんで、それ一人で行く、こと?」
「え、うん。だめ?」
「だめだけど。俺と行くのがいいじゃん。待ってろ」
「んん?お疲れなSellyさんを気遣ったつもりだったんですがぁ」
「待ってろ」
「はいはい、わかった。わかったってば」
水が滴る手を振って、いってらっしゃいをする彼女に頷いて、ソファーから立ち上がる。
今日は何をしようか。LOLもAPEXも配信で一人、だらりとやるには、少し、いや結構、面倒くさい。
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作者名:空色 | 作成日時:2022年1月6日 13時