【CR】短編集 (ページ11)

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Aっ？、と慌てて顔を上げれば、さっきまで見えていたAの姿は無く、代わりにもぞもぞと動く白いシーツのお化けがそこに立っていた。
あっちこっちにお化けが手を伸ばそうとしては何も掴めなくて、わたわたと動くのがあまりにも面白くて、思わず手に持っていた携帯でシャッターを切れば、シーツのお化けが、たすけてぇ、となんともか細い鳴き声を上げる。

「あはは、A。おもしろいね」
「ううー、笑うなぁ！」
「シーツのおばけみたいだよー」

助けてあげようとベランダへ行けば、やっとシーツの端っこを掴んだAが、ぷは、とシーツから顔を覗かせた。
僕が笑ったのが気に入らなかったのか、頬をふくらませながら、シーツを羽織って端っこを掴んだ手を僕に伸ばして、おばけだぞぉ、お菓子を寄越せえ！と、季節外れのハロウィンみたいな事を言う。
でも、Aの傍に来た僕は全然違うことを思っていて。
だって、ここはぽかぽかで暖かくて、優しい匂いがしていて、Aの羽織ったシーツがまるで。

「……A、おばけじゃなかったや」
「うん？」
「A、あれ。えっと、なに。結婚」
「んっ？んえ？」
「あー、そうそう！はなよめ、みたいだ」

肩にかかったシーツを、ベールのように被せる。薄くて白い、ただのシーツだけど、それに包まれたAが顔を真っ赤にしちゃうもんだから、その姿が可愛くて、本当に花嫁みたいだ。
Aの全身をすっぽり覆ったベール。その両端は、今は僕が持っていて、後ずさってもAに逃げ場なんてないわけで。

「"……誓いのキスの予行練習でもしとく？"」
「あ、う…、なん、なんて……？」

僕が言った言葉の意味がわからないAに小さく笑って、言葉の代わりに一つ、キスを落とした。