第十五話 H.I. ページ17
ピピ、と熱を測り終えたと知らせる体温計の機械音が鳴る。それでもAは、透明な涙を双眸から流し続けている。
その姿は、いつもとガラリと雰囲気を変えていた。
Aは無意識に壁を造って、取って付けたようなにこやかな笑みを浮かべ、周りと一線を引いている。だから、誰も近づけなかった。
だが、今目の前にいるAはどうだ?
まるでそれが無い。
「熱は無いようだな」
「見たいですね」
安心しきったように、にへらと笑うAにもはや仮面など存在しない。崩れ去った壁から溢れ出した、Aの本心。
近寄り難かった雰囲気が消え、身近な存在に感じられるように変わった。
「・・・落ち着いたら戻ろうか」
喉から手が出る程、手を伸ばしても届かない存在が近くにいる。それだけの事実に、血迷った輩が続出するだろう。
それに、この表情を見るのは俺だけでいい。
「おっと」
体温計を元の場所に戻そうと、丸椅子から腰を上げようとしたら上着の布地を引っ張られる感覚に、足を止める。
ぐい、と軽く握られるもんだから、俺はAの方へ振り返る。
――――ああ。
「あ、ありがとうございます」
頬を少し赤く染めて、涙を浮かべながら微笑むAに、少し遅れて言葉を返して、沼のように深い陶酔に俺は浸った。
駄目じゃないか。
そんな簡単に警戒心を解いたら。
何てことを考えながらも、俺の欲望に塗れた感情が囁く。
いっそ、どろどろに溶けきって、俺だけを見ればいい。
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蒼炎(プロフ) - とても面白いです!主人公と柊先生の絡みが物凄く好きです!続き待ってます!お願いします!! (2021年4月20日 22時) (レス) id: bdaf0ebad8 (このIDを非表示/違反報告)
葉紅(プロフ) - もう更新しないんでしょうか?すごく面白いので続きが見たいです。更新楽しみにして待っています! (2020年9月27日 1時) (レス) id: 915a610475 (このIDを非表示/違反報告)
蒼炎 - もう更新しないのでしょうか?是非、待ってます! (2020年9月7日 21時) (レス) id: 62727f5aad (このIDを非表示/違反報告)
飛鳥(プロフ) - 物凄く大好きです!これからも頑張ってください!楽しみに待ってます!! (2019年4月6日 15時) (レス) id: 4cf65d0de3 (このIDを非表示/違反報告)
九重 - じわじわと男主を喰っていく柊先生(精神的に)ドロドロとした独占欲が堪らない!堪らない!ありがとう!ありがとう! (2019年3月28日 23時) (レス) id: b60eca276a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:空天 馬 | 作成日時:2019年1月13日 0時