第三十一話 湿気の時間 ページ1
ぽたり、と靴に落ちる水滴。
湿度が上昇し雨天の続く空。今年もこの季節がやって来た。
夏の暑さに茹っていた草木が、降り注ぐ雨を浴びて生気を取り戻し始め、道中には紫陽花が咲き誇る。蝸牛も喜んでいることだろう。
「ねえ、あれ」
「あ、前原じゃんか」
帰り道が同じの潮田達と歩いていると、岡野と杉野が立ち止まって指を指す。傘で隠れた視界を上げ、その先を視る。
同じ傘に入り、並ぶように歩いているのは前原とC組の土屋。
「はっはー、相変わらずお盛んだね彼は」
「ほうほう」
前原君駅前で相合い傘っと―――と、まるでストーカーの如く、電柱の影に隠れメモを取る黄色い生物。コイツの場合、普通のゴシップ記者よりたちが悪いのは、捏造も無しに忠実に書き取るところだ。
「あれェ?果穂じゃん。何してんだよ」
水溜りに気付き土屋の肩を抱き寄せた前原に、盛り上がっていた黄色い生物に引いていると、土屋の名前を呼ぶ声がした。
土屋が駆け寄った先は、懐かしい顔ぶれだった。
生徒会議長の瀬尾に、荒木。
「せ、瀬尾君!!生徒会の居残りじゃ……」
「あー、意外と早く終わってさ。ん?そいつ確か―――」
瀬尾の視線が前原に向く。関係を指摘されると、焦ったように瀬尾へ取り繕う土屋。何だか雲行きが怪しくなって来たな。
「あー、そゆことね。最近あんま電話しても出なかったのも、急にチャリ通学から電車通学に変えたのも。で、新カレが忙しいから俺もキープしとこうと?」
「果穂、お前」
前原にも瀬尾にも疑いを抱かれ、否定を繰り返し続ける土屋。しかし、急に前原を指差し、不審感を取り除くために必死に弁明し始めた。
言っていることは、全て支離滅裂。
「……お前なぁ、自分のこと棚に上げて」
流石に前原も癇に障ったのか、抗議しようとする。
「わっかんないかなぁ。同じ高校に行かないっててことはさ。俺達お前に何したって後腐れ無いんだぜ?オラ、ちゃんと礼言えよ果穂に。同じカサに入れてもらったんだから―――よッ!」
「―――ぐッ!?」
次の瞬間、瀬尾が前原の腹部を蹴り飛ばした。沸々と怒りが込み上がって来る。他人の色恋沙汰に首を突っ込むつもりはないが、これは別だ。
傘を放り出し、前原の元へ向かおうとしたその時。
「やめなさい」
その場を収束させるだけの圧迫感を含んだたった一声が、動きを制止させた。
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柑橘類(´;ω;`) - まさかのポ○モンww (2022年3月8日 1時) (レス) @page16 id: b9050f97b8 (このIDを非表示/違反報告)
夢莉(プロフ) - 最高です!とても面白いです!更新頑張って下さい (2019年10月20日 21時) (レス) id: 86330688ee (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - 面白すぎます。描写とかたくさん書かれていて読むのが楽しいです、頑張ってください (2019年9月4日 23時) (レス) id: 94e906f1db (このIDを非表示/違反報告)
空天 馬(プロフ) - カイさん» ありがとうございます〜 今のところは誰、とは考えてないですw (2019年8月21日 22時) (レス) id: e9bd85a3ea (このIDを非表示/違反報告)
カイ - ヒロインとかはいたりしますか? 面白いです! (2019年8月21日 14時) (レス) id: 0a1f4d95ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:空天 馬 | 作成日時:2019年8月17日 4時