第十七話 忘れ物の時間 ページ19
「分かってたけどなぁ」
「ボロいな」
E組が泊まる宿泊地『さびれや旅館』。一斉に見上げ、口に出た言葉はボロい。宿の名は外観を現すように、劣化しさびれていた。
俺としては、中々に良い雰囲気を持つ旅館だとは思う。
伝統を感じる古風な造りに心が落ち着くし、客足も悪くはなさそうだ。
「一日目で既に瀕死なんだけど」
「新幹線とバスで酔ってグロッキーとは……」
旅館内に入った瞬間、黄色い生物は力無くソファに凭れ掛かった。見るからに顔が変色しているなとは思っていたが、まさか酔っていたとは想像もしなかった。
「大丈夫?寝室で休んだら?」
「いえ、ご心配なく」
心配する言葉を投げ掛け、気遣いを見せる岡野。その手にはナイフが握られていて、振り下ろされる度に黄色い生物は避ける。
「先生これから一度、東京に戻りますし。枕を忘れてしまいまして」
先程から気になっていた、山積みの荷物に目を向ける。
あれだけ荷物があるというのに、忘れ物をしたのか。凡そ、余計なものを持ってきすぎたせいで、本当に必要なものを置いてきてしまったのだろうな。
「どう、神崎さん。日程表見つかった?」
「……ううん」
どうやら、俺の班に何かを忘れた人物がいたようだ。意外にも、事前の確認はしっかりとやりそうな神崎だったので首を傾げた。
黄色い馬鹿があのしおりを持ち歩けば安心だと言うが、はっきり言って論外。
アレが重たいから神崎は日程を纏めていたと言うのに。
「確かにバッグに入れてたのに……」
有り得るのは、本当に忘れたか。
あるいは、何処かで落としてしまったのか。
「神崎、俺ので悪いが持っていろ」
「え?それだと天霧君に悪いよ」
申し訳なさそうな顔で俺と、俺の手の中にある日程表に視線が行き来する神崎。隣にいる杉野から刺すような強い視線を感じるので、補填しておこう。
「俺は潮田のを見せてもらうから気にしないでくれ」
「うん。だから神崎さん、大丈夫だよ」
俺から指名された潮田は、最初は戸惑っていたが直ぐに合わせてくれた。御蔭で、少し悩みはしていた神崎だが日程表を受け取ってくれた。
何より、俺に最初から日程表など必要ない。
全ての内容が頭に入っているのだから。
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朔(プロフ) - 今更なんですがとてもハマりました。これからも応援しています。 (2021年5月23日 2時) (レス) id: 0cbe8ba716 (このIDを非表示/違反報告)
腐女神だぜ☆(プロフ) - コメ失礼します。主人公がくっそかっけえです。これからも更新頑張ってください。応援してます。 (2019年8月16日 20時) (レス) id: b63828eb3d (このIDを非表示/違反報告)
浅野月愛(プロフ) - 初コメ失礼します!いつも天霧くんのカッコいい行動にドキドキさせられています、これからも更新頑張ってください!(急かすつもりとかはないので) (2019年8月15日 11時) (レス) id: e6ca85b3e9 (このIDを非表示/違反報告)
零 - 続き、楽しみにしています。 (2019年3月31日 22時) (レス) id: 67a2382333 (このIDを非表示/違反報告)
御子柴(プロフ) - 好きです!!!! (2019年2月23日 3時) (レス) id: 5350486dcc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:空天 馬 | 作成日時:2019年2月14日 4時