検索窓
今日:12 hit、昨日:22 hit、合計:795,276 hit

第十七話 忘れ物の時間 ページ19




 

「分かってたけどなぁ」

「ボロいな」
 

 E組が泊まる宿泊地『さびれや旅館』。一斉に見上げ、口に出た言葉はボロい。宿の名は外観を現すように、劣化しさびれていた。

 俺としては、中々に良い雰囲気を持つ旅館だとは思う。
 伝統を感じる古風な造りに心が落ち着くし、客足も悪くはなさそうだ。

 


「一日目で既に瀕死なんだけど」

「新幹線とバスで酔ってグロッキーとは……」


 旅館内に入った瞬間、黄色い生物は力無くソファに凭れ掛かった。見るからに顔が変色しているなとは思っていたが、まさか酔っていたとは想像もしなかった。

 

「大丈夫?寝室で休んだら?」

「いえ、ご心配なく」

 
 心配する言葉を投げ掛け、気遣いを見せる岡野。その手にはナイフが握られていて、振り下ろされる度に黄色い生物は避ける。

 

「先生これから一度、東京に戻りますし。枕を忘れてしまいまして」
 

 先程から気になっていた、山積みの荷物に目を向ける。
 あれだけ荷物があるというのに、忘れ物をしたのか。凡そ、余計なものを持ってきすぎたせいで、本当に必要なものを置いてきてしまったのだろうな。



 

「どう、神崎さん。日程表見つかった?」

「……ううん」

 
 どうやら、俺の班に何かを忘れた人物がいたようだ。意外にも、事前の確認はしっかりとやりそうな神崎だったので首を傾げた。

 黄色い馬鹿があのしおりを持ち歩けば安心だと言うが、はっきり言って論外。
 アレが重たいから神崎は日程を纏めていたと言うのに。

 

「確かにバッグに入れてたのに……」

 
 有り得るのは、本当に忘れたか。
 あるいは、何処かで落としてしまったのか。



「神崎、俺ので悪いが持っていろ」

「え?それだと天霧君に悪いよ」


 申し訳なさそうな顔で俺と、俺の手の中にある日程表に視線が行き来する神崎。隣にいる杉野から刺すような強い視線を感じるので、補填しておこう。



「俺は潮田のを見せてもらうから気にしないでくれ」

「うん。だから神崎さん、大丈夫だよ」


 俺から指名された潮田は、最初は戸惑っていたが直ぐに合わせてくれた。御蔭で、少し悩みはしていた神崎だが日程表を受け取ってくれた。

 何より、俺に最初から日程表など必要ない。
 全ての内容が頭に入っているのだから。







第十八話 暗殺旅行の時間→←第十六話 移動の時間



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (719 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1440人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

この作品にコメントを書くにはログインが必要です   ログイン

(プロフ) - 今更なんですがとてもハマりました。これからも応援しています。 (2021年5月23日 2時) (レス) id: 0cbe8ba716 (このIDを非表示/違反報告)
腐女神だぜ☆(プロフ) - コメ失礼します。主人公がくっそかっけえです。これからも更新頑張ってください。応援してます。 (2019年8月16日 20時) (レス) id: b63828eb3d (このIDを非表示/違反報告)
浅野月愛(プロフ) - 初コメ失礼します!いつも天霧くんのカッコいい行動にドキドキさせられています、これからも更新頑張ってください!(急かすつもりとかはないので) (2019年8月15日 11時) (レス) id: e6ca85b3e9 (このIDを非表示/違反報告)
- 続き、楽しみにしています。 (2019年3月31日 22時) (レス) id: 67a2382333 (このIDを非表示/違反報告)
御子柴(プロフ) - 好きです!!!! (2019年2月23日 3時) (レス) id: 5350486dcc (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:空天 馬 | 作成日時:2019年2月14日 4時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。