第二十八話 ページ30
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12月某日
「終わったー!!」
終了のチャイムが鳴って、至るところから上がる開放された声
今日で最後の定期試験が終わり、後日行われる終業式を終えたら冬休みに入る。
「としくん」
「どうした?」
「今年は実家帰ってくるの?」
幼い頃に出会ってから徐々に始まった家族ぐるみの付き合いも、もう長年になる。
家と家の距離も近所なので、初詣は毎年二家族揃って行くのが恒例だった。
でも高校に入ってとしくんが学生寮暮らしになってからは、としくんのお母さんと私たち家族のみで行っていた。
この時期は春高前の集中練習期間で、としくんに帰ってくる時間がなかったからだ。
「そうだな。まだ母親には連絡していないが、今年は1日だけ帰ろうと思っている。」
「ほんと!」
「ああ」
久しぶりに行く全員揃っての初詣
嬉しくてお正月が待ち遠しくなった。
1月1日
吐息が白いくらい寒い寒い朝
それでもたくさんの人たちで賑わう神社
「A」
「としくん、明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう」
「走ってきたの?」
ランニングウェア姿のとしくん
家から一緒に来たとしくんのお母さんは後から来るって言っていたけど、そういうことか。
「ああ、寒いな」
「鼻のあたま、赤くなってるよ」
滅多に表情を変えないとしくん
相変わらず表情は変わらないけど、そんなとしくんが鼻を赤くしてる姿がなんだかかわいかった。
「カイロあげる」
「いい、Aのが無くなるだろう」
「2個持ってる」
「そうか、ありがとう」
としくんにあげようと思ってあたためておいたカイロを渡す。
長い行列
お母さんたちは後ろで盛り上がっている。
としくんと二人きり
会話は少ないけど、別に沈黙の時間は苦じゃない。
じんわりと掌に伝わるカイロのあたたかさを感じていた。
「この感じ、久しぶりだな」
沈黙を破ったのはとしくんだった。
「そうだね」
「大学は東京で決まりか?」
「うん」
「そうか」
「みんなでの初詣はこれで最後かもね」
「そうだな」
今年からそれぞれ新生活が始まる。
中学3年のあの日からずれ始めた、としくんとの距離
やっと元通りになったけど、時間はあと少ししか残ってない。
そう思うと、寂しく感じた。
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自分から大切な時間を無駄にしたんだ。
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作者名:にゃん吉 | 作成日時:2020年1月21日 23時