Over Love 3

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しんしんと降り積もる雪道を
轍(わだち)に沿って進むタクシーに揺られ
いつもより時間を掛けて到着した自宅。


コートをハンガーに掛けるAの造形が

やたら儚く、やたら華やかに映った。



そこに居るのに幻想のようで

たった一輪の花なのに
驚くほど存在感を放っていて。


「うーっ、さーむっ」
「…えっ？ちょっと…」


その存在を肌で感じ取り、ホッとする。


「あったけぇー」
「…どこがよ。冷えてるじゃない」





ずっと考えていた。





「あったかいじゃん？…ほら」
「…っ!!冷たっ!!」


もし俺たちが戦友じゃなかったら、
幼馴染じゃなかったら、

直球勝負が出来たんじゃないか。



「あははっ、ほら、Aも！」



中学3年の9月。

隣の席にさえならなければ
同じマンションじゃなければ

違う道順で辿り着けたんじゃないか。



「冷たっ！」
「ふふっ、あったかーい！」



でも、結局俺は

ゴールを目指す事を諦め
逃げ道を探していただけなんだ、と。

ビビってる自分に
戦友という名の鎧を着せていただけなんだ、と。



「な？あったかいだろ？」



唯一無二の存在だって事くらい
嫌なくらい分かっていたはずなのに



「あったかいんだよ、二人で居れば」



Aもそうであって欲しい、と

わざわざ洗脳するように囁くあたり、
余裕ないよね、俺。









　


　









美玲が破水したと連絡があったのは明け方の事。


　“ねぇ隆くん、お姉ちゃんの事よろしくね？”


「午後だろ？俺車出すよ」


Aは遠慮がちだったけど
昼間会ったばかりの美玲が、俺も心配だった。


電話の後、Aは寝付くことが出来ず
睡眠時間1時間弱で出勤する羽目になり

　“隆二、痛い”
　“ん。そうだね？”

昂っていた自分を悔やんだ。






「ごめんね隆二」
「ん。おつかれ」


昨日ぶりのこの道を
今日はAと二人で走る。

思い出話に花が咲いたのは
俺も、多分Aも
逸る心を無意識に誤魔化していたから。


「あ、美桜！」

病院近くの公園にAを降ろし、駐車場に車を停め
急いでそこに向かった。





「隆くーん！」

俺を見つけた昨日ぶりの美桜が
まるで、天使のように微笑みなが手を振っていて
思わず顔がほころんだ。


「隆二君まで申し訳なかったね」
「いえ、全然。ご無沙汰してます」


おじさんに挨拶を済ませふと気づく。


妙な視線が、俺に向けられていた事に。

　

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