Over Love 3

134　After Story　side you ページ34

金曜の終業後。


「A、飲み行こー」


紗希の椅子に腰を降ろすと同時に項垂れた菜奈。

システム管理部は丁度今、
定期的なアップデートの時期。

激務に追われる菜奈の喉を潤しに向かった
職場近くの居酒屋で。


「大将ー、こんばんはー」

「「…あ」」


何処かで見覚えがあるその光景に
菜奈も私も硬直してしまった。


奥の小上がりに居たシステム管理部の後輩たち。


そこには当然八木も居て

当然、白濱も居て。


　“あっ！菜奈さん(ねえさん)！お疲れっす！！”
　“…八木。いい加減その呼び方どうにかしてよ”


　“八木と付き合う事になりましたッ！”


あの頃と関係性が変わったのは


　“A、俺、本気で好きだから”


菜奈だけではなく…。




「菜奈さん、ココ、空いてますよー？」


他の後輩たちに囃し立てられ
結局菜奈は、前回同様八木の隣に。

そして私は

「すみませんAさん」

結局、白濱の隣に…。


目の前の席が菜奈だった事が唯一の救い、なんて


「ビールでいい？」
「え、あ、うん」


まるで、動揺してるみたいじゃない…。








菜奈と八木の間に絶妙な隙間があったように

私と白濱の間にも絶妙な隙間があった。


バカみたいに左半身の神経が研ぎ澄まされていて

「…っ」

ほんの少し肘が当たっただけで
勝手に息が止まる。


「…A、Aっ」


ハッとして、手招きする菜奈に顔を寄せたら


　(…帰らない？)
　(帰る！)


居た堪れないのは菜奈も同じだった。


「じゃあ私たち、お先に…」









　






　




白濱と並び歩くこの状況。

断り切れない私が悪いと非難を受けたとしても
それは真摯に受け止める。


ただ。


「送ります」


菜奈は八木と一緒に帰った。


「え、いいわよ」
「送らせて下さい、Aさん」


連れが恋人と帰宅してしまったばかりに
もう片方はぼっちで帰宅するという
表面的には哀愁漂うこんな場面で

先輩の面目を潰さない様気遣えるなんて
それこそ出来た後輩だ。


完璧とも言える後輩像。


ただ、それは

　“A、俺、本気で好きだから”

感情が伴わない場合にのみ確立するのだけれど…。





100メートルは歩いただろう。


「寒くない？Aさん」
「…白濱」
「ん？」


もしかしたらそれは
思い上がりや
ただの自惚れだったかもしれない。

純粋な気遣いなのかもしれない。



だったとしても。


「私、寄る所があるの。だから、ここで」



　

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