Over Love 3

128　After Story　side R ページ28

“隆二？仕事中に悪い。
　Aが倒れて……”



臣からその連絡を受けたのは

　“出張になりそうなの”

あれから2週間後。



「っ！！Aは？Aは？臣っ！！」

「大丈夫。気ぃ失っただけだから。
　今はビタミン剤点滴して、眠ってる」

「そう…か。分かった。すぐ向かう」

「待ってる。あ、そうだ隆二。
　今、後輩がAに付いてるから
　焦んないで気を付けて来いよ？」

「…後輩？」


　“お前の事抱きしめた男(ヤツ)、誰？”
　“後輩”


「臣、…A、何で倒れたの」

「課長(・・)がAの目の前で倒れて、さ…」


それで
強いショックを受けたのではないか、と。




　“誰？”

　“黒澤課長”






　



頭が真っ白だった。


流れゆく街並みを
景色としてとらえる事すら出来ず


Aが

その存在が

手のひらからこぼれ落ちていく気分に陥っていたのは





　―俺の、A。




確実に情けない自分が原因だ。









　





五十嵐商事の取引先が倒産すると聞いたのは
彩華さんからだった。


「隆二君、久しぶり！」
「彩華さん！いらっしゃい」


彼女から聞かなければ
その状況さえ知り得る事がなかったかもしれない。


　“誰？”
　“黒澤課長”


くだらない嫉妬に翻弄された挙句

Aと並んでビルに向かう臣にさえ
もどかしく感じていた自分。


「野田さんが行ってるの？」
「多分、ね？」

「そう…。きっと大変な思いしてるはずよ？
　帰ってきたら癒してあげてね、隆二君」


何一つ助ける事も出来ず
傍にいてやる事すら出来ず

Aが戦っているというのに


　―ただいま

　―おかえり、不良娘。


一喜一憂しているだけだとか…。






　









「隆二っ」


急患受付窓口を探していた俺に
臣が手招きをした。


通路に響く靴音がやけにクリアで落ち着かない。



「臣…」
「ん？」


多分臣は、敢えて避けていた。


「…黒澤さんは、大丈夫なの？」

　“課長(・・)がAの目の前で倒れて、さ…”


その歩みが一瞬だけ止まったのは
気のせいではない。


「…大丈夫。過労だってさ」


観念したかのように口を開いた臣。


ただ、次の一手に

今度は俺の歩みが止まる。



「ちなみに後輩(・・)は、
　…たまたま残業してただけだから」



処置室の扉の前で臣は俺の肩に手を置き

靴音を響かせながらその場を後にした。


　

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