Over Love 3

120　After Story　side you ページ20

呼吸と汗が落ち着いた頃

青白く宙を踊る煙草の煙を眺めながら

思い出していた。



　“経営者の今市隆二です”



「…ねぇ隆二
　…何で隆二が…お見合いに来たの？」

「約束…、思い出して」



約束という言葉に

落ち着きを取り戻していた心臓が跳ねた。



「…約束？」

「なぁA、覚えてない？」





サイドテーブルのリモコンに手を伸ばし
にこりと微笑んだ隆二は

私の頭にポンとその手を乗せた後

プロジェクターにリモコンを向けた。




「…隆二っ、これ…」




壁一面に映し出された遠い記憶。




　“オトナになったらボクと結婚して！”

　“うん！いいよ？”



鼓動が高鳴る理由はなに？

奥歯が震える理由は？



　“Aさ、一番古い記憶って何歳？”

　“幼稚園の時に好きだった子は覚えてる”




　―あの時も

　―この川は今日のように太陽の光を浴びて
　 キラキラと水面が……





　―私のファーストキスは…





4歳か5歳の私が


よく知った景色の中で


大好きだった男の子と……




「思い出した？」




キスをしていた…。






　“Aちゃん、だーいすき！”

　“わたしもだーいすき！”






「隆、二っ…」

「あははっ、Aちゃん(・・・)、だーいすき！」

「わっ…私も、だいす…き…」





こんな事ってある？

こんなに出来た話って、あるものなの？





「ははっ、まーた泣いちゃった。
　よしよし。おいでA」




何処かおぼろげな私に

素肌で感じる体温が驚くほど心強くて
驚くほど安らいで

その存在の大きさを今更ながら実感していた。



子供をあやす様に私を扱った隆二。



大きな手が私の頭を優しく撫でてくれて
筋肉質な腕でしっかり抱きしめてくれて

時折、額にキスが落ちる。



胸がいっぱいだった。

息苦しいほどの幸せを感じていた。







「A、やばい」


言葉足らずな隆二を見上げれば

そこには

随分と妖艶に私を見下ろす男の顔。




「えっ…」


慌てて布団を手繰り寄せたけど

後の祭り。





そう。





私たちはもう

プラトニックな貞操観念に美徳を求めるほど

幼くは、ない。





「…俺の…A」



隆二は既に、私の新たな枢軸を見抜いていた。




「女の顔、してんじゃねーよ」

「……隆二こそ」




無駄に挑発的にせせら笑った私たち。



クタクタだったはずの私は


目の前で溢れている信じられないほどの色気に

再び飲み込まれる選択をした。

　

121→←119

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す