Over Love 3

118　After Story　side R ページ18

“隆二ッ……”






脱力したAが

力ない手をそれでも彷徨わせていた。


その手を掴み取れば微かに反応を見せ

意識もままならないくせに
ひどく魅惑的に微笑んだA。



「隆…二……」
「ん？」

「……す、き…」



耳を凝らさなければ聞こえない程度の声量でそう囁いたAは
幸せそうに瞼を閉じた。



……ったく。ホントお前は、さ？









　


　






モノクロだった未来に
色が着き始めたのは

ワインの試飲会があった頃。







夢を見た。




　“オトナになったらボクと結婚して？”

　“うん！いいよ？”




4歳か5歳の俺が

天使の様な女の子にキスをしていた。



　“……ちゃん、だーいすき！”

　“わたしもだーいすき！”



周りを見渡せば、そこは、あの河原で

土手には、俺の母親とAの母親が居て



　“Aちゃん、隆二、はい、チーズ！”




シャッターが下りた瞬間

目が覚めた。




「……マジ、か？」



寝起きの俺は、慌てて携帯を手繰り
母親にLINEをした。





1時間後。





母親から送られてきたその瞬間の写真。





写真の中で、俺は

天使の様な女の子にキスをしていた。






―覚えてない？

―野田さんたちが引っ越した後
　遊びに来てくれてね？

―帰りたくないってAちゃん大泣きして
　そしたら隆二…









モノクロだった記憶と
モノクロだった未来に

色が着いた瞬間だった。





　“俺たち、戦友だな”




俺は……馬鹿だ。






　

　




あれからずっと考えていた。

いや。




　“Aさ、一番古い記憶って何歳？”

　“隆二は？何歳？”

　“…何歳か分らない記憶があるんだよね”

　“へー、初恋？”

　“…多分、な？”




もっとずっと前から。








　





決戦の日(その日)をAの誕生日、9月22日に定めた俺は

それに向け、準備を始めた。



その中の一つが、フランス産の白。

Aが気に入ったそのワインにフルボトルがあると知った俺は
先輩に頼み込み、探してもらうことに。



「見つけたぞ隆二」

「マジっすか？
　今から行ってもいいっすか？」



最悪、間に合わない覚悟だったにもかかわらず
丁度時期が重なり
思ったより相当早く入手することが出来たその日。



「え…？隆くん？」



事が動いた。



　“……もう、いい”

　“隆二、私の幸せ、見届けてくれない？”




来る時が来たんじゃない。



今しか、ない。









　

119→←117

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す