Over Love 3

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隆二のマンションが
久しぶりに感じた。


　“………もういい”
　“私の幸せ、見届けてくれない？”


まさかこんな展開になるなんて

誰が想像できただろう。




部屋の鍵を開け、先に入った隆二は
後から扉を閉めた私に言った。



「おかえり」

「…………ただいま」



目頭が熱くなった。

その胸に抱き寄せられ、零れ落ちた涙。




見つめ合い、ゆっくりと距離が縮まり

重なる直前
隆二の瞳が揺らいだように見えた。



やっと触れることが出来た。


そう感じるほど
その瞬間を待ちわびていたんだと気付き


　“結婚。してくれるの？くれないの？”
　“しっ…してもいいけど？”


ニヒリズムな物言いをした自分を疎んだ。




苦しくなるほど絡め合った後

隆二はそのまま屈み込み
私の10.5センチに手を掛ける。


丁寧に揃え置かれたヒール。


横抱きに抱えられ
降ろされた先は定位置(ソファー)。



「ちょっと待ってて」




　“抱きたい”




散々その気にさせたくせに

いつものように私の頭にポンと手を置いた隆二は

随分と艶のある表情でジャケットを脱ぎ
ネクタイを緩めながらキッチンへ向かった。



その先でニコっと微笑み、視線を落とす。



手にしたボトルが
ライトラムとコアントローだと気付いた瞬間



心臓が跳ねた。






　“隆二(マスター)、テキーラくれない？”





スパイシーフローラルな空間に香り立つ
フレッシュレモン。


シェイカーをセットした隆二はもう一度微笑み

そして

その表情はプロ(・・)へと変わる。




少し視線を落としながらシェイカーを振るその仕草に

私は静かに息を飲んでいた。



綺麗なその手で
なめらかに、可憐に。

彼特有の旋律を奏で
その旋律はゆっくりと静みゆく。





無言で差し出されたカクテルは想像通り。







―――XYZ(エックスワイジー)。







　“悪酔いするぞ”






あの日

私の体調を瞬時に察したマスターは

やけ酒しようとする私に
テキーラではなく
このカクテルとキーケースを差し出した。



XYZという名前の由来。

アルファベットの最後尾でもあるXYZ。


これが最後。

つまり、これを飲んだら帰れ、と
あの夜は私にそう説いた。







だけど、今夜は違う。






震える手を堪えながら

私はグラスを口に運んだ。



込められた想いと共に味わうXYZは

私の涙を誘った。








―――XYZ。




カクテル言葉は「永遠にあなたのもの」。


　

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