059 side T ページ9
Aが席を立った後
「悪い、電話…」
解りやすく席を離れた臣さん。
ため息をついた俺に、美鈴先輩の視線が刺さる。
「随分解りやすいわね?」
「…そうっすよね」
「
「えっ?俺っすか?」
お猪口を煽った美鈴先輩が
“注ぎなさい”と言わんばかりに俺に差し出した。
徳利を傾けながら
「素敵な
「えぇっ…!あっ!」
「ちょっと…何やってるのよ岩田」
動揺で手元が狂い、日本酒を溢してしまった。
美鈴先輩の洞察力の鋭さを忘れていた。
伺いながらその顔を覗けば
かつての後輩を案ずる穏やかな眼差し。
取り繕う必要なんてない。
受け皿の広さに
肩の力がすーっと抜けていった。
「…先輩。あの二人の事、何か知らないっすか?」
すがる思いだった。
何か一つでも糸口が欲しい。
一度肩で呼吸した美鈴先輩が
目の前で消沈する後輩の為に、渋りながらも口を開いてくれた。
「登坂が上海に行く前
一度彼女と会った事があるわ。
臣さんが上海に赴任したのは6年前。
確かにあの頃
臣さんに歳上の彼女が居ると噂で聞いた事がある。
「まあ、彼女は私に気付いてないみたいだし
私もさっき思い出したくらいだからね…」
「それって……」
「それ以上はどちらかに聞きなさい?」
徳利を手にし、眉を動かした美鈴先輩。
一気に流し込んだ日本酒が
喉を熱くした。
スッと開いた個室の扉。
「岩田、A…さん、具合悪いらしいから
帰していいか?」
それは、あからさまに“何かあった”と物語っている。
「Aどこっすか?」
「……向こうで休んでる。俺、送るから」
「はっ!?」
「岩田!…落ち着いて」
喰い気味の俺を制止した美鈴先輩。
掌に爪が食い込んでいた。
「Aは俺が連れて帰ります」
“こいつ、俺が連れて帰るよ”
臣さんが紗希を連れ去ったあの夜。
紗希が臣さんに抱かれながら消えたあの夜。
あの夜の感情が
じわじわと俺を浸食する。
「岩田。事情は後で説明するから」
「…意味わかんないっす」
感情的な俺と対照的に冷静な臣さん。
器の差を突きつけられているようで悔しかった。
そんな俺をあっさり窘めたその言葉。
「 “A” が望んでるんだよ」
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空(プロフ) - kotanonさん» 更新遅くなってすみません^^;ありがとうございます!3も、お付き合い頂ければ嬉しいです^^♪ (2020年6月24日 7時) (レス) id: 7cc216fb7f (このIDを非表示/違反報告)
kotanon(プロフ) - 空さ〜ん☆更新ありがとうございます!! これからの展開も楽しみにしてます♪♪ (2020年6月24日 0時) (レス) id: 3c70e90779 (このIDを非表示/違反報告)
空(プロフ) - ねーやんさん» お久しぶりです!お手間とらせてすみません^^;移行になります!よかったらまたよろしくお願いします^^ (2020年6月23日 10時) (レス) id: 7cc216fb7f (このIDを非表示/違反報告)
空(プロフ) - ユキさん» 行きましたよ―笑ついでにATMもww (2020年6月23日 10時) (レス) id: 7cc216fb7f (このIDを非表示/違反報告)
ねーやん(プロフ) - わ…びっくりしました(笑)お久しぶりです。久々すぎても一度読み返しまーす(笑) (2020年6月21日 22時) (レス) id: 8f158f058f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:空 | 作成日時:2020年3月8日 16時