067 side T ページ17
外は、雨が降っていた。
「じゃ、またね岩田」
しっかりとした足取りでタクシーに乗り込んだ美鈴先輩を見送りながら
さっき響いたクリアなグラスの音を思い出し
感傷に浸る。
“Aが望んでるんだよ”
“登坂の顔見たでしょ？解ってるくせに”
頭で理解できたとしても感情が追い付かず
三杯では
異様に寝つきが悪い。
“逃げる要素なんてどこにも無いでしょ？”
“Aは俺の秘書だからね？”
その温度を知ってしまったからこその喪失感。
手に入りそうで…奪われる。
臣さん。
俺はいつまで経っても
臣さんには追いつけないんすか？
夢とうつつを彷徨いながらそんな事を思い
敗北感を味わいながら
自分の気持ちに確信を持つ。
俺はAが。
俺は既に、Aが…
「…ん？」
その連絡が来たのは午前3時。
「坊っちゃん、こんな時間に申し訳ございません」
小林さんの声色から
その表情が強張っているのだろうと
容易に想像する事が出来た。
「どうしたんですか？」
丑の刻を過ぎたはずの自社ビルは
それでも尚、不穏な空気を漂わせていた。
「副社長、お呼び立てして申し訳ございません」
「いえ。詳しく聞かせて下さい、望美さん」
警備会社から連絡が入ったのは
深夜1時の事だったらしい。
エントランスを
あっさりと潜り抜けた一人の男が向かった先は
副社長室。
反対派閥が雇った便利屋は
情けない事にセキュリティー解除を誤った。
「社への被害はありませんでした。ただ副社長…」
―――Aに、盗聴器が仕込まれました。
「っ！坊っちゃん！！」
“具合悪いらしいから帰していいか？”
“俺、送るから”
“事情は後で説明するから”
“Aが望んでるんだよ”
アスファルトに雨の余韻を残したまま
空は白み始めていた。
赤信号がもどかしい。
行く手を阻む水溜りが邪魔くさい。
革靴が恨めしく、足は乳酸溜りまくり。
口は渇き
喉の奥で血の味がした。
顔が見たい。
声が聞きたい。
触れたい。
やっと視界に捉えたAのマンションは
濡れた外壁が朝日を浴び、キラキラと輝いていた。
「…A」
走り続けた足を休め携帯を手に取る。
「え…」
目を疑った。
「…うそだろ」
エントランスから出て来たのは
追い続けていた背中だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1596人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「登坂広臣」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
空(プロフ) - kotanonさん» 更新遅くなってすみません^^;ありがとうございます！３も、お付き合い頂ければ嬉しいです＾＾♪ (2020年6月24日 7時) (
レス) id: 7cc216fb7f (このIDを非表示/違反報告)
kotanon(プロフ) - 空さ〜ん☆更新ありがとうございます！！ これからの展開も楽しみにしてます♪♪ (2020年6月24日 0時) (レス) id: 3c70e90779 (このIDを非表示/違反報告)
空(プロフ) - ねーやんさん» お久しぶりです！お手間とらせてすみません^^;移行になります！よかったらまたよろしくお願いします＾＾ (2020年6月23日 10時) (レス) id: 7cc216fb7f (このIDを非表示/違反報告)
空(プロフ) - ユキさん» 行きましたよ―笑ついでにATMもｗｗ (2020年6月23日 10時) (レス) id: 7cc216fb7f (このIDを非表示/違反報告)
ねーやん(プロフ) - わ…びっくりしました(笑)お久しぶりです。久々すぎても一度読み返しまーす(笑) (2020年6月21日 22時) (レス) id: 8f158f058f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：空
| 作成日時：2020年3月8日 16時
