Over Rain 2

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会いたいのに

会いたくない。



触れたいのに、怖い。



本気で溺れた相手を抱いているのに

苦しくて仕方がない。



Aも終わりを感じているはずなのに

俺たちの会話にその単語が出る事は無かった。




上海赴任まで2週間。


「渡航日、決まったよ」

「…そう」


それ以上の事を聞こうとしない彼女。



この部屋がどうなるのかの

いつ日本を離れるのかも

この先、俺たちの関係がどうなるのかも。



伏し目がちに視線を反らした事だけが
唯一目に見えた感情だと思いたい。


本当なら、上海にAを連れて行きたい。
でもそれは


“もっと上を目指したい”


叶う事はないと解っている事実。




「Aは、かっこいいよ。やっぱ」




だったら。

最後(・・)くらい、最上級の背伸びをしようと



「俺と仕事………どっちが大事？」


　“俺と仕事どっちが大事？とか言われたら？”

　“絶対無理。即冷める”



俺は覚悟を決めた。


7年も8年も、Aを縛る訳にはいかない。





せめて俺が







終わらせる。







「Aを幸せに出来る人は…俺じゃない」







　









　




その日、雨が降っていた。




滑走路から離陸する飛行機を

傘もささずに見送っていたAの後姿(・・)。




飛行機が見えなくなっても

その場から離れようとしないAの元に駆け寄って





俺はまだ(・・)ここに居ると

全身全霊を込めて抱きしめたい衝動を、






押し殺す。







やっと歩きだしたAは


驚くほど綺麗な顔で泣いていた。








きっとその涙は


一年分の涙。






　


　









渡航3日前。



本当の渡航日は二日後。

だけど、

『明日渡航する』と偽りの日程(・・・・・)を連絡した。





幼稚な賭けだった。





淋しいとも

悲しいとも



何一つ発さなかったAの




心が知りたかった。




Aは本当に俺を必要としてくれていたのか。

Aは本当に俺を愛してくれていたのか。





初めて見たAの涙に




後悔していた。





渡航日程を偽ってまでそれを探ろうとした
幼稚な俺が

Aを“大人の女”と位置付けてしまった事で

彼女はそれを貫く他なかったんだと

今になって気付かされるなんて。







後悔しても、もう遅い。



　



俺のせいでAは







　



涙を流さなかったんだ…。









　

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