053 ページ3
「………分りやすっ」
「…何がよ」
動揺を隠してますと言わんばかりに
意味が分らないと言わんばかりに
そんな強がりで剛典を睨み上げて見るけど
―――気付かれたかもしれない。
…だとしたら、どこまで？
どの程度？
いや。
…もしかして敢ての敬語の方？
心は焦っていた。
「さあ、ね？」
そう言いながらグッと寄せて来た距離に
焦る私は無意識に一歩身を引いた。
「逃げるの？」
この先のセリフと、この先どうなるのかを
私は知っている。
「逃げる要素なんてどこにも無いでしょ？」
「へえ？そう。だったら……逃げるなよ？」
あの日と同じ。
本当は心臓が相当バクバクしているくせに
意味のない虚勢を張る私は
視線をしっかり合わせながら近づくその顔を
同じように睨み返し
どうなるのか分った上で
その体温を受け入れた。
そしてこの夜
「Aは俺の秘書だからね？」
と、
新しいセリフが付け加えられた。
ふわ付く脳みそ。
地に足がつかない思考。
「はぁ…」
家路に着きながら
何度ため息をついたかすら分らない。
“ため息をつくと幸せが逃げる”なんて言うけど
だとしたら
もう私に幸せは残っていないかもしれない。
そんな事を考えてしまう時点で、重症だ。
「おかえりA」
「…直人？」
自宅前で待ち構えていた直人。
「じゃーん！
赤地に白いロゴ。
持ち手も白い、そのショッパー。
「うそっ！本当に買って来たの？」
「一客は俺のだけどね？」
“バカラのグラス二客で許してあげる”
行動力の速さに感心しながらも
その顔を見て、心の底からホッとしていた私。
それもそうだ。
もう何年もの間
私の喜怒哀楽を受け止め続けてくれていたのは
他の誰でもない
目の前で優しく微笑んでいる“直人”だった。
“情けない自分ごと受け止めてくれる
無償の温もりが 欲しい”
「…直人」
「ん」
ほら。
抱きしめて欲しい、なんて
わざわざ言わなくたって
直人は読み取ってくれる。
「バカラで乾杯しようよ。上がって？」
「今日は帰るよ。明日早いんだ」
「…そう」
だからこそ確実に心が落ちていた。
「なーに？そんな顔して。寂しいんだ？」
直人が選んだ口づけの場所は、私の額。
私に物足りなさを残したまま去って行く後姿。
もしこれが直人の作戦なら
私はその作戦にまんまと引っ掛かっていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1596人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「登坂広臣」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
空(プロフ) - kotanonさん» 更新遅くなってすみません^^;ありがとうございます！３も、お付き合い頂ければ嬉しいです＾＾♪ (2020年6月24日 7時) (
レス) id: 7cc216fb7f (このIDを非表示/違反報告)
kotanon(プロフ) - 空さ〜ん☆更新ありがとうございます！！ これからの展開も楽しみにしてます♪♪ (2020年6月24日 0時) (レス) id: 3c70e90779 (このIDを非表示/違反報告)
空(プロフ) - ねーやんさん» お久しぶりです！お手間とらせてすみません^^;移行になります！よかったらまたよろしくお願いします＾＾ (2020年6月23日 10時) (レス) id: 7cc216fb7f (このIDを非表示/違反報告)
空(プロフ) - ユキさん» 行きましたよ―笑ついでにATMもｗｗ (2020年6月23日 10時) (レス) id: 7cc216fb7f (このIDを非表示/違反報告)
ねーやん(プロフ) - わ…びっくりしました(笑)お久しぶりです。久々すぎても一度読み返しまーす(笑) (2020年6月21日 22時) (レス) id: 8f158f058f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：空
| 作成日時：2020年3月8日 16時
