Scramble LOVER -夜半の約束3

106　side R：拒絶 ページ6

金曜の夜。


「明日、ドライブにでも行くか？」
「え、明日…」



今思えばその衝動は

何かを予感した俺の
窮余の一策だったのかもしれない。



「隆二っ、私明日、…広臣と約束してるの」


　“俺、プロジェクト終結したら
　 Aに告白しようと思ってる”



その時が来たと知り、
そして、その報告を盾に俺を拒んだAに


絶望した。


拒絶こそが、Aが出した答えだ。



「…そっか。臣とデートか」
「……デートって言うか」



Aにとって臣が絶対的な存在である事は
今に始まった話ではない。

Aを見つけるのはいつも臣で
Aの横顔を大人にさせるのも臣だった。



Aが幸せなら。

相手が臣なら。



そう思っていたはずの俺が
本当は欲しかった事に気付かされたあの日。



　“…だったら、俺とも出来るって事？”
　“……出来る”



欲しいなんて次元では済まされない存在だと気付いたあの日。



　“俺の人生から居なくなったら許さねーからな。
　 Aが存在しない人生なんて
　 マジ耐えらんねーから”



Aが存在さえしてくれていればそれでいいと

細胞の末端まで認識させていれば
その衝動を抑える事が出来たかもしれない。



「A。臣に幸せにして貰えよ」



詰めの甘さが露呈された俺は
二度と同じ衝動を繰り返さない為に

Aにそう言いながら
自分に言い聞かせていた。



「…じゃあ、帰るわ」


その時、
立ち上がった俺の手を掴んだのはAだった。



「…なによソレ。
　だったら何でキスしようとしたの？」

「自意識過剰すぎ。そんな事する訳ねーだろ」

「じゃあ思い出すってなに？
　何を思い出させようとしたの？」

「思い出す事なんて、…なんも無いか」

「あるわよ。隆二だってあるでしょ？」



　“やめんなら今だぞ”
　“…いいって言ってるでしょ”



もう泣けないと言ったAの目から
大粒の涙がボロボロと零れ落ちている。


その涙を拭いそうになったのは
衝動ではなく条件反射。

身に染み付いてしまっているその習性を

拳で握り潰した。



その権利が、もう俺には無い。



　“隆二っ、私明日、…広臣と約束してるの”



「A、俺たち幼馴染だよな？」



存在さえしてくれていれば、それでいい。
幸せになって貰えれば尚の事。



「もう忘れよう、お互い」



臣なら絶対、Aを幸せにしてくれるから。



「悪かったな」
「隆二」
「…じゃあな」


　

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