Scramble LOVER -夜半の約束

046　side you：夜半の陶酔 ページ46

「あれだよ、俺のマンション」



窓際に立つ広臣が私を呼び寄せ

バルコニーの遠くに見えるそのマンションが
広臣のマンションだった。




「物、少なくね？」
「…夜逃げしやすいように」
「冗談やめろよ。せっかく見つけたのに」




その香りが
スカスカだった心ごと、私を包み込んだ。

どこか大人っぽい、
深くて、それでいて爽やかなこの香り。




「今日はいい匂いって言ってくれないの？」




首元に縋りながらそう言われ、
頬に触れた耳が熱くて、

感情を、存分に煽られている。




「…懐かしい匂い、かな」




なんだよそれ、と言った広臣の腕に

グッと力が入った。




平気な素振りをしてるけど、
本当は今更焦っている。





「もう勝手に居なくなんなよ」




首の角度がこちらに向き
耳を塞ぐように会いたかったと囁いたその口が

私の首筋を、悪戯に甘噛みした。




「んっ」




顔は見えなかったけど
声を漏らしてしまった私を笑った気がして

悔しい。



でも、そんなちっぽけな悔しさは一瞬で消えた。



首筋から顎を辿った唇が重なり
直ぐに侵入して来たその動きが

いとも簡単に記憶を蘇生させる。





あぁ、本当に広臣だ。




頭の片隅でそんな風に思いながら

その一方で、理性と本能がせめぎ合っていた。





しっとりと響くリップ音。

舌の温度が上がっている。


ジャケットのボタンを外された。


ソファーにゆっくりと倒される直前に
私のジャケットは床に落ち

身体には、その重みが掛かる。





揺れたスプリング。

漂う香り。





目の前には艶にまみれた、







「広臣、まって…」







違うでしょ。
このままじゃダメよ。



やっぱり部屋に上げるべきではなかった。



こうなる事は想定出来たはずなのに、

これこそ私の愚かさだ。






「…なに」






拒否しなければと、
拒まなければと頭ではそう思うのに、

広臣の香りとその視線に翻弄される私は

行動が伴ってくれない。




そんな葛藤を見透かす様に甘く口角を上げた広臣は

返事を待たずに
私の唇を生ぬるい舌でなぞった。



潤んだ瞳で愛おしそうに見つめられ、

堪りかねたように「A…」と囁かれ、



心の奥底が、

じわっと熱くなる。









「ずっと会いたかった…」








満たされる自尊心。

浴びせられる欲。







もういい。



足掻いたって今更よ。








私たち大人なんだし、

それに、



どうせ私は、最低な女なんだから。



　

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