Scramble LOVER -夜半の約束

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挨拶回りが終わる頃には
広臣の存在にもすっかり慣れ、

関係性がどうとか
言い訳を探そうとか

そんな思考すら消えていた。


3日も経てば考え込んでいた事すら忘れ、
状況に馴染んでいる。


メンバー同士も打ち解け出し、
さらに親睦を深めようと
今夜はチームで飲みに来ていた。



「Aさん、岩田さん、こちらに！」



林さんに促された席は、広臣の向かいの上座。

広臣(マネージャー)の近くに座らされる事は想定内だったけど

開始早々に岩田が社に呼び戻されたのは
完全に想定外だった。



「岩田さん、忙しいのね」
「手前味噌ですけど、彼、優秀なので」



林さんにまで岩田の能力を強調する辺り。

広臣の顔を見る事が出来なかった。




程なくして林さんが向こうの席に移動した真意は
定かではない。


ため息を誤魔化しながら
残りのビールを流し込んだ私を

広臣は見透かしながら笑っていた。


空のジョッキを受け取った広臣は
私の2杯目にハイボールを注文し、

その事がきっかけで
私たちが同級生だという事を
メンバーに知られてしまった。



「Aさんと登坂さんて知り合いなんですか？」



人間観察が好きな人や
洞察力が優れている人というのは、
どんなコロニーにも必ずいる。


参加していたメンバーの一人が

私の2杯目に広臣が確認もせずにハイボールを注文した事に確信を持ったという。


敬語が抜けた口調。
テーブルに肘を付いて話をする広臣。

軟骨のから揚げに許可なくレモンを掛けた事。
苦手な食材のお通しを広臣が黙って食べた事。



詰めが甘かった。

知られる可能性もあるだろうとは思っていたし
その時はその時だと覚悟はしていたけど

出来れば知られずにやり過ごしたかった。



　“登坂君を解放してあげて”
　“私情挟んだ訳じゃないから”



同級生だという事以上は深堀されずに済んだけど

その代わり解散後、
広臣は皆からリーダーを送ってやれと言われ
そんな流れになってしまった。




「送らなくて大丈夫よ。遠回りだし」

「遠回りか分かんないけど送るよ。
　俺も引っ越したんだよね」

「えっ？…そうなの？」




広臣が口にした地名に驚いた。

そこは、
私が今住んでいるマンションと同じ地名。




「隆二も引っ越したよ」
「え、」



何処に、と言いそうになって

言葉を飲み込んだ。



私にそれを聞く資格はない。


それでも確実に動揺している。





あのマンションにはもう、


隆二も広臣も居ない。




　

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