Scramble LOVER -夜半の約束

031　side you：アニマルセラピー ページ31

　“今日はデザートがあるよ”



「やばくない？A、大抜擢だよ」



確かにそうなれば光栄な事で

本来ならこの話は
確かにとっておきのデザートだ。




「…A？どうした？」




でも、心が震えている。

目の前がチカチカする。





「もしかして、どっちかの会社？」

「…うん。当該じゃないかもしれないけど」

「どっち？」





話を持ち掛けられたのも承諾したのも専務。

余計な事をしてくれた。


しかも岩田が仕入れた情報によると、専務は
夜半(よわ)の営業にほだされたらしい。





「なるほどね。どうする？俺を利用する？」

「……利用？何に」

「そうだな。今日はまず抱き枕になって。
　夜通しで抱きしめてやるよ」

「なってって、私が利用されてるみたいじゃない」

「何言ってんの。
　夜通しで抱きしめて貰えるんだよ？この俺に」




随分な理屈だったけど有言実行。


寝返りが打ちにくいという難点があったものの

本当に岩田は
私を一晩中抱きしめてくれていた。



明方に一度、
その腕がもぞもぞと動いて

さすがにキツいだろうとそっと身体をずらしたら

それに気付いた岩田が薄っすらと目を開き、
夢の世界から「ダメ」と言って身体を引き戻された。



こうやって見ると本当に子犬の様で

アニマルセラピーの有効性が
私自身で実証された。










迎えたその日。



選出された人員に各部長から通達があり
岩田の情報通り、私と岩田も指名された。



相手先との打ち合わせに先立って
その日のうちに行われたミーティングは

専務が参加するという理由で

普段使っているミーティングルームではなく
役員の個室が並ぶ上の階まで呼び出され

終いには、蓋つきの煎茶を出された。





「という訳で桜木君、リーダーお願いするね」

「承知致しました」





何が楽しくて
専務の夜半(よわ)の後始末をしなければならないのか。




相手先からは２つの企画が上がっていて
週末には早速コンペを行うという。



渡された封筒の社名に

改めて息を飲んだ。










　









　






田崎エイジェンシーは、広臣が務める会社。








中の資料を祈りながら確認した。






どうか違いますように。

せめてその名前がありませんように。







「……」







きっと神様は居ない。





「岩田、補佐に就いてくれない？」
「了解です」




私はその日、
初めて自から岩田のマンションへ向かった。


　

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