Scramble LOVER -夜半の約束

020　side I：出逢い ページ20

名古屋支店から
本社に転勤になり

配属先にいた二つ上の先輩がAだった。



その話を聞いたのは
元々本社勤務をしていた同期から。



「岩田、Aさんの所に配属になったって？」
「そうだけど」

「彼女、女豹って呼ばれてるの知ってる？」
「女豹？…狙った獲物は逃さない的な？」

「逆だよ。誰も彼女を落とせない。
　落とそうとした奴は必ず玉砕する」





社内にAを落とせた男は居なかった。

そもそも男は
対象外なんじゃないかという噂もある。



「誰がそんな事言ったのよ」
「営業の吉田さんです」
「なるほど。吉田、Aにフラれてるから」



隣の部署の亜樹さんは
Aの高校時代の同級生で

社内で唯一、
Aが素の笑顔を見せる相手だった。



亜樹さんにだけ見せるその笑顔が
相当レアだと感じる程、

普段はクールで、神秘的でミステリアス。




「亜樹さんと居る時のAさん、
　めっちゃいい顔で笑いますよね」

「あれが本来のAだから」

「へー。そうなんですね」




興味が沸いた。




仕事が出来る。
見た目もいい。

で、

本来の姿を偽る理由は何だ？




「亜樹さん、
　Aさんて実際、恋人居ないんですか？」

「さあ？本人に聞いてみたら？」



あきれ顔でそう言われ、
そのまま直球で本人に聞いた当時の俺は



「それを話す事で仕事にもたらす利益は？」


と、

まさに女豹の如く一睨みされて終わった。




ただ。

さらに興味が増した。




　― 岩田君が好きです。付き合って下さい。
　― 君の気持ち、ちゃんと知りたいな。




誰も落とせない女。

誰にも堕ちない女。



例えばそれを、俺が落としたら？




　― 違うの、私…
　― …ショックだよ。君を信じてたのに




女豹の仮面の下に

どんな顔が隠れているのか見てみたい。




「岩田君、私達と飲みに行かない？」
「いいんですか？是非！」



社内のお姉様方からは
子犬みたいだなんてよく言われるけど

実際俺は、嗅覚(・・)が利く。




その日は夜まで気温が高く
外はジメジメしていて
ついに雨が降り出した。



「うーわ、最悪」



でも、それで済ませないのが流石な俺。


前方に知った後ろ姿を見つけ
その背中が唐突に立ち止まり

進行方向をこちらに変えた彼女の表情には

女豹のめの字もなかった。



そして、

その向こうに居た二人の男の視線が彼女を追い

その足が踏み出す。




あ。

チャンスじゃん。


　

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