Scramble LOVER -夜半の約束

019　side AKI：願い ページ19

Aに変化があったのは

引っ越したいと言い出した頃から。



「本当にいいの？」
「うん…」

「後悔しない？」
「大丈夫。もう決めたから」



相当抱え込んでいたし

引っ越す事でAの心が軽くなるならと
そう思っていたけど


引っ越してからは余計に

物思いに耽る瞬間があったり
不意に笑顔が消えたりで

引越した事が果たして正解だったのかは
分からない。












「Aさんて、神秘的って言うか
　ミステリアスですよね」


ある日、新入社員の子にそう言われ

なるほど、だから最近、
Aにアプローチする男(ヒト)が増えたんだと、
妙に納得した。



悩み苦しみがAの魅力を増幅させるなんて

皮肉な話。



ただ、
吉田の一件で懲りているAは

社内の男性に好意を抱かれる事を
極度に嫌がっていて

男性社員に対して線を引き、
それでも言い寄る男はばっさりと断り続けた。




その反動なのか、

仕事に対する意気が強まり
上司からの評価は上がって行き

それを妬む人間も現れ始めた。






吉田が命名した女豹という呼び名が定着したのは

それらが原因だった。






「言いたい奴には言わせといて」




強気の姿勢を崩さなかった事で
その呼び名が独り歩きをしてしまい

本来のAを隠し立て、今に至る。









Aと二人で飲んだいつかの夜。




もう恋は要らないと、Aが言った。








切なかった。




私はずっと
隆二君か臣君のどちらかと上手くいって欲しいと
そう願っていたし、

Aを含め
三人の心が複雑に絡み過ぎている気がして

もどかしさも感じていた。



なにより私は

Aに幸せになって貰いたい。





　“お願いA！協力してくれない？”

　“なんで言ってくれなかったの？
　 なんで黙って行っちゃうのよ！”





大人になればなるほど

同性には話しにくい悩みや
恋人でなければ支えられない領域もある。



例え青春の二人じゃないとしても

Aを支えてくれる誰かが現れて欲しいと
密かに願っていた。






そんな中、

女豹と比喩されるAに
やたら懐く子犬が現れたのは半年後。




「亜樹さん、
　Aさんて実際、恋人いないんですか？」

「さあ？本人に聞いてみたら？」




彼がAを支えてくれる。

確証も無いのにそんな気がしていたのは


私の願望が
そうさせたのかもしれない。



　

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