Scramble LOVER -夜半の約束

012 ページ12

卵を作り直そうと思っていた時に
広臣が戻って来た。



「お帰り。話終わったの？」
「うん。…あのなA、」

「そうそう、卵が固くなっちゃって。
　作り直すから座って待ってて」

「いいよそのままで」

「トロトロの方が好きじゃん。すぐ出来るから」

「A。いいから」






最近私は、この香りを香る頻度が増えた。








「ごめんな、嫌な思いさせて」









私は


隆二と亜樹に隠している事が一つある。










「…広臣、先に食べよう？」

「……無理」










恋人同士だったのは過去の話だし

別れて以来、想いを伝えられた事もない。




それに私自身、

隆二と広臣の比重は同等で


だったら何故かと言われたら

理由は多分


　“察してやれ。俺たちもう、大人なんだから”


それ以外ない。






私がなりたいと思っていた大人とは
到底升目が違うけど

私達は恋人でもないのに

時々、こうして肌を重ねている。




きっかけなんて語るに及ばない。


半年前。
ストーカーに遭ったあの後。


私の迎えついでに
三人で飲みに行く約束をしていたその日、


隆二が来られなくなって、

二人で飲んで、

広臣の部屋で飲み直して、


その日から。





「責任取れなんて言わないから安心しろ。

　俺たちもう、大人なんだから」




その日こそ戸惑いと背徳感があった。

でも、徐々にその状況にも慣れ

今では何の躊躇いもない。



付き合っていた当時は
その最中(さなか)、愛の言葉を沢山くれたけど

今の関係性の中ではそんな事もなく

それが逆に
戸惑いや背徳感を軽減させる要素にも繋がった。



この交わりには言葉が少ない。

大人だと割り切る時間。



それが本当に大人なのかは

分らないフリをしているだけかもしれない。








　






「その林さんて人もさ、
　大人に見えて案外焦ってるのかもよ？
　臣君、Aの事しか頭にないだろうから」

「…それは違うと思うけど」



広臣は割り切っている。
私たちもう大人だから、なんて、

亜樹に言えるはずもなく。



「それにしても臣君も隆二君も
　まどろっこしいよねー。
　この際Aから告白してみたら？」

「なんでそうなるのよ」

「だってA、二人以外の人と付き合うって
　考えられる？」

「……」

「ほら。答え出てるじゃん。
　あとはAがどっちを選ぶかね」

「選ぶなんて…」



出来る訳がない。



今のままでいい。

今のままで。


　

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