Scramble LOVER -夜半の約束

002　side you：one more PROLOGUE ページ2

学生の頃
早く大人になりたいと思っていた。

大人になって強くなりたい、と

人を思いやり
自分以外を優先できる強さが欲しい、と

そう願っていた。




まだ青春(あお)かった私は
社会人になったというだけで

大人になったつもりでいた。



そんな青春(あお)い私に

子犬の仮面を脱いだ後輩が言った。





「なってみろよ。本物の女豹に」









直属の後輩で二つ年下の岩田。


仕事が出来る。
見た目もいい。

寄って来る女は星の数ほどいるくせに

過去の恋愛に囚われ過ぎて
恋人を作らない主義を貫く孤独な男。




「だから俺を選んでくれたんでしょ？」
「選んでないけど」
「素直じゃないね」



爽やかな風貌で愛想もいい彼は

その人懐っこさから子犬と比喩され
鳴り物入りで女性社員の人気を博した。




ただ、腹の中は真っ黒だ。

向上心と言えば聞こえがいいけど
その野心は、他人の心さえ平気で利用する。




「人聞き悪いな。
　献上された心(しな)を丁重に頂いてるだけだよ？」

「ずいぶん立派なご身分ね」

「分相応のつもりだけど」




腹黒さも一流だけど
その饒舌ぶりは更に上を行く。

かみ砕いて言えば、くそ生意気。




「Aだけだよ、献上してくれないの」
「してるつもりだけど」
「孤独だけはね」



彼は私を孤独だと言う。

そして自分も孤独だと言う。




孤独を孤独で癒す夜半(よわ)。


マイナスにプラスを掛けてしまうと
マイナスになるけど

マイナスにマイナスを掛ければプラスになる。




「プラスになりたいの？」

「プラスにならない夜半(よわ)に意味がある？」

「俺はマイナスの夜半(よわ)もアリだと思うけど」




そう言って独裁者は

グラスのシャンパンを空にした。





「愛してるよ、A」




愛の無い夜を極上の夜に仕立て上げる為に

愛を囁き、堪能し、

愛を必要としない私に愛を強要する。




「空気、読めない？」

「…………愛してる」



意味を成さない言葉で遊びながら

今日も孤独を孤独で癒す。



最低な私。

でも私、元々最低だから。



それに気付かせてくれたのが


この子犬だから。


　

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