Scramble LOVER -夜半の約束

001　side I：PROLOGUE ページ1

俺が今、
ハマっている女を紹介しよう。


名前は桜木A。

職場の二つ年上の先輩で、選択独女。



「岩田です。よろしくお願いします」
「桜木です。よろしく」



仕事が出来る。
見た目もいい。

寄って来る男は星の数ほど居るくせに
過去の恋愛に囚われ過ぎて

恋人を作らない主義に転じた孤独な女。



「その孤独な女に執着してるのは誰よ」
「孤独と美味(うま)いは違うから」
「毒入りだけどね」
「Aの毒なら喜んで毒されるよ」




誰も落とせない女。

誰にも堕ちない女。




とりわけ着飾っている訳でもないのに
これほど色気が溢れているという事は

この女が本気を出した時、

どんな牙を剥くのだろうと想像するだけで
ぞくぞくと胸が震える。




良く言えば神秘的。

悪く言えば、ミステリアスな女豹。




「あなたも似たようなモノじゃない」
「俺が？全然？」

「腹の中真っ黒なくせにいい子ぶって。
　子犬キャラが聞いて呆れるわよ」

「心外だな。さすがに女豹には負けるよ？」




女豹の貴女も魅惑的だけど

その仮面を外した貴女ほど中毒性のある女を
俺は知らない。




だからこそ彼等(・・)も、

未だにAを

解毒する事が出来ないんだろう。




出逢いたかったな。

学生の頃の
恋に純粋だった青春(あお)の貴女に。




「実は熟した方が美味しいんじゃないの？」

「知ってるよ。
　だからこそ青い実も食べてみたくなる」

「そしてその苦さに必ず後悔する」

「後悔は人生の栄養だよ？」




俺が誰かに嫉妬するとすれば、

例外なく彼等(・・)。




Aの心に生き続けている絶対的存在。




「なぁA。
　いつになったら俺のになってくれんの？」
「なってるようなものでしょ」
「俺はAの心が欲しいんだけど」




でも、彼等のお陰で今があるから
ある意味、感謝もしている。



今のAを知っているのも
女豹の仮面を被る理由を知っているのも

彼等ではなく、俺だから。





「愛してるよ、A」



本当は弱くて
本当は脆(もろ)くて

それを懸命に偽りながら生きる貴女が

この先どうなって行くのか興味がある。



「空気、読めない？」

「…………愛してる」




誰も落とせない女。

誰にも堕ちない女。




確かに俺は
そんな貴女にどっぷりハマっているけど

Aの人生に於いて俺は単なる傍観者。

見届けるだけの立会人。



落とす必要もないし

堕ちる意味もない。


　

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