ゆくあてなき刹那の恋詩 2

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例え連絡しなくとも

どうせ昂矢がお腹を空かせて
ビーフシチューを温めるはず。

足りなかったら…
奴らの事だ、コンビニに行くだろう。


プラス二品は諦めた。

せめてお酒。

ちょっといいお酒じゃなくて
もっといいお酒にすればいい。




「本日はありがとうございました」


クライアントを見送り
時間を確認した。




21時。



「さ、私たちも帰りましょ」
「……」
「岩田？」



岩田の視線を辿り
その光景を目撃する。


夜とは言え
人工的な明るさを保つ街はまだ人通りも多い。

そんな中
人目も気にせず、欲のまま交わされている
濃厚なキスシーン。


「岩田…」


言葉を失ったのは
岩田も私も、知った人間だったから。


「…なんなんすかね、俺」

　“彼女の事、責めないでやって下さいね”


中村リコ。

岩田の、刹那(・・)。



「もう少しでフェードアウト(・・・・・・・)出来そうって
　思ってたんすけどね…」



岩田の線香花火も、火薬玉が燻っていた。

その苦しさや辛さが
私には痛いほどよく解る。




同調から生まれる不協和音。




岩田の刹那は、他の男と欲を絡めたまま
その肩越しに岩田を見つけ


「ッ…」


その目が、笑った。








「岩田。行くよ」



怒りが湧いていた。

岩田の手を引き
夜のアスファルトを進んだ。


ありえない。

ありえないでしょ！？


どんな神経してるのよ。
どんだけ最低な女よ。


それでも離れられないって、
中村リコ(アンタ)を責めないで下さいって、

岩田はそう言ったのよ？


ありえないから！




歩道には
私たちが進む道が自ずと出来ている。


前だけを見ていた。


ヒールを鳴らし
胸を張って
颯爽と。


下を向く事はない。
岩田が下を向く理由なんてない。


大丈夫。
岩田(アンタ)は充分いい男よ。


自信持ちなさい。

前を見て。

胸を張って！！





「Aさん…」

「なに！？」


手を引き止められ
ゆくあてを無くした怒りと勢いを
声に乗せてしまった。


そんな私に
随分と晴れやかに微笑んで見せた岩田。


「ありがとうございましたAさん。
　…タクシー、拾って来ますね」


私には、岩田の刹那を理解する事が出来る。

その苦しさや辛さが、痛いほどよく解る。



他の、誰よりも。





「…Aさん、やっぱ一杯だけ
　付き合ってくれませんか？」




自惚れだと言われようと

今の岩田には

私が必要だと判断した。



　

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