ゆくあてなき刹那の恋詩 2

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余計な思考は吹き飛び

どっぷりとその世界に入り込む中

不意に離された唇に
情けない心が拗ねていた。


「おまえ、ルームキー持って来た？」
「…あ」

「ははっ。仕方ねーから泊めてやるよ」



　―泊まってく？
　―ははっ、心外だなー
　―お前がいい声出すからじゃん



なんか悔しくて。

意味もなく、悔しくて。



「…フロントに…ッ、んっ…広臣、やめ…て…」
「いーの？止めても」



触れるか触れないかの距離で
サディスティックに見下ろされ

あまりの艶っぽい瞳に

聞こえるんじゃないかと思うくらい
心臓が喜んでいた。



「……いいもん」



ニヤリと笑った広臣。

やっぱり、悔しい。



「やめねーし」
「んンッ………やめ…」




その時だった。


「Aさん！…っ！！何やってんだよ！！」



広臣の肩越しに見えた、あの目(・・・)。




やばい。

現状私は

背中に壁、
握られた手首は顔の真横で押さえつけられ

もう片方の手で腰を抱かれ、



そう。
資料室から見たあの日の岩田と全く同じ状況で

しかも、岩田が広臣を見据える目まで
あの日と同じ。

刃物のように鋭い視線を広臣に向けていた。




「……え、臣さん？」




広臣の握力が緩んだのと同時に

岩田が私の手首を掴み
私は岩田の方へ引き寄せられた。




「大丈夫ですか？Aさん」

「え…っと…、岩…」

「邪魔すんなよなー？」



かぶせ気味に口を開いた広臣。



「せっかくAさん(・・)落とせそうだったのに。
　なに邪魔してくれてんの？」



まって、何言ってるの？



「すみません。でも
　嫌がってるのに、…良くないっすよ、臣さん」

「ははっ、ご忠告どうも？…じゃ、戻るわ。
　おやすみなさい、Aさん」



なに一人でかっこつけてるのよ！！！









　






「大丈夫ですか、Aさん」
「…う、うん」

「そうだAさん、これ」


ピアスを届けに来てくれた岩田。


「キャッチがどうしても見つからなくて」
「予備のキャッチあるから大丈夫。
　ありがとね、岩田」


数時間前の出来事を感じさせないほど
変わらないその態度に

とりあえず胸を撫で降ろしたものの

私の意識は
すぐに別の方向を向いた。



岩田を見送り、８階を押す。



　“ははっ、ご忠告どうも？…じゃ、戻るわ。
　 おやすみなさい、Aさん”



去り際に、微かに聞こえた8、1、3(はち、いち、さん)。


その部屋の前で

深呼吸をした。




　

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