１２３話 ページ26
「贋物…」
立ち上がりエンデヴァーを見るステインからは言い知れぬ恐怖を皆に与える。
一瞬にして場の空気は重く息苦しくなり、まるで暗い水の底にいるようだ。
ゾゾゾと背筋が凍るような感覚に襲われながら誰一人として口も身体も動かさない。
重傷であるステインのみ一歩…一歩前へ進み言葉を投げかける。
「正さねば……誰かが…血に染まらねば…！」
「『っ！！』」
「来い。来てみろ贋物ども」
彼の意思と殺意は言葉と共に皆へと送られる。
その威圧感に気迫は……息苦しさはAの記憶を揺さぶり、ある男の顔と言葉が浮かぶ。
゛かかって来い。人間ども゛
この状況でようやくAは気づく。
今感じている感覚は何度も味わったものだと。
肉体は違えど魂はそのまま……A・ブライアントとしての記憶が警鐘を鳴らす。
「「！？」」
考えるまでもなく彼女は数歩前へと進み、戦闘の構えをとる。
一度も目を離すことなく鋭く冷たい視線を向ける彼女からも静かな殺気が放たれていた。
「俺を殺していいのはオールマイト(本物の英雄)だけだ！！」
その言葉を最後にステインは動かなくなり、ようやく轟達は息を吐きその場にへたり込む。
我に返った者達からステインや脳無を捕縛しようと動き出すが、Aは今だにステインから目を離さない。
出久は先程の姉の姿を思い浮かべながら恐る恐る声をかける。
「姉さん？大丈夫…？」
弟の声に反応した彼女は小さく息を吐き、振り向くことなく返事を返した。
『大丈夫ですよ』
「！」
背伸びをしながら『今日は散々でしたね』と話す姉に出久は「……そうだね」と短く返す。
そんな姉弟を……Aを探るような目で見ていたのはグラントリノとエンデヴァーだ。
治療をする為に病院へと運ばれた出久達。
Aは怪我もなく、警察からの聴き取りに応じていた。
エンデヴァー達は後処理に追われており、Aは一人でホテルに戻り休む。
ベッドに仰向けに倒れこみ静かに瞼を閉じる。
三十分にも満たない間に起こった出来事を一から思い出していく彼女は何処か寂しげだ。
(そういえば……そうでしたね)
雨の中、大切な人達の身を案じ走り向かうは破壊音の響く路地裏。
そこで目にしたのは傷ついた友人の姿であり、今回と同じく錬成で逃がしながら壁を作った。
それは初めて命を投げ出し無茶をした時でもあり、小さな友人達が殺されたと知った日でもある。
(…………歳ですかねぇ)
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作者名：SORA | 作成日時：2017年12月10日 0時
